ジャイアントパンダ⑤ パンダの出産と子育て

ジャイアントパンダは、オスで6.5~7.5歳、メスで3.5~4.5歳で性成熟して、普通3~5月の春が繫殖期になります。メスの自然排卵を伴った発情が1交尾期に1回だけあり、妊娠可能な発情は2~4日と短い期間だけしかありません。

パンダの結婚は多重配偶者!!

春の繁殖期になると、メスは恋鳴きという鳴き声やニオイでオスを惹きつけ、知り合いながら親しくなります。普通オスのパンダの発情はメスのパンダと同時性をもっているので、メスは発情すると、連続的な鳴き声や待機中のポーズをとって、相手に愛を示して交尾を誘います。

オス、メス一頭ずつで愛し合うこともありますが、2~5頭のオスがメスを奪い合ってケンカをすることもあります。時には交尾中の現場を見学に来る、交配力の弱いパンダや成熟前の青年パンダがいたりします。

パンダの世界は多重婚の婚姻制度なので、オスもメスも何頭もの相手と交尾をします。交尾を終えると、パンダはまた元の一人暮らしに戻り、メスは妊娠、出産、育児を自分だけでするようになります。

パンダの妊娠期間は平均で135日ですが、着床遅延(ちゃくしょうちえん)が起こるため85日から185日とその期間には個体差があります。パンダの着床遅延とは、受精直後に発生した胚が休眠することです。受精は卵管内で起こりますが、胚は数回分裂してから子宮に入って成長を止めて休眠状態になります。

パンダ以外のクマ類では、着床遅延中に胎盤が成長するので、パンダも同じ時期に胎盤が成長すると考えられます。その成長した胎盤に、何らかのシグナルで胚が着床し成長を始めます。胚が成長する期間は、出産前の35日間から50日間です。

自然交配するパンダ
自然交配するパンダ(引用: 東京都
日本最小の赤ちゃんパンダ
日本最小の赤ちゃんパンダ(引用: アドベンチャーワールド
(日本最小は75g、世界最小は42.8g

ジャイアントパンダは、胚が存在しない場合「偽妊娠」という生理現象が起こります。妊娠していないのに妊娠しているように子宮が大きくなったり、お乳が出たりする状態です。ホルモンの分泌も妊娠の時と同じなので、本当の妊娠との区別は専門家でもとても難しいのです。

未解明が多いパンダの妊娠

「パンダの排卵はいつ起こるのか?」「偽妊娠の起こる割合はどのくらいか?」「着床のシグナルとなるものはなにか?」「着床前、着床後の胎子の死亡率はそれぞれどのくらいか?」など、まだ解明されていません。飼育下のパンダはほとんど自然交配で生まれますが、飼育下ではなぜか多くのオスが繁殖を拒みます。その理由もわかっていません。

パンダは春に交尾して、出産は大体8月になります。隠れた木の穴や天然の洞窟の中に、小枝や葉っぱ、枯草などを敷いて、愛情を込めて出産場所を準備してから赤ちゃんパンダを生むのです。

パンダやクマ科の赤ちゃんは、発育が不十分な超未熟児として生まれるのが特徴ですが、それが長い間生物学者にとって謎でした。その後、哺乳類の新生児の骨格を慎重に比較した結果、クマ科の赤ちゃんは早産で小さいのでなく、満期の妊娠期間を経過した骨格レベルに達して生まれていることがわかりました。

ところがパンダの新生児だけは例外で、着床後の妊娠期間が短く、十分成長する前に出産するので基本的に未熟です。その理由は不明ですが、過去2000万年の間に成獣のサイズが大きくなったのに、出生時のサイズは変わらなかったので、成獣と比較して未熟すぎる状態で生まれてしまっているのだと専門家は考えているようです。

生まれたばかりの赤ちゃんパンダの平均体重は145gで、オトナパンダの千分の一しかないのです。それを一年半から二年かけて面倒を見て、自分だけで育てていくのですから、母パンダにとって育児はとても大変な仕事です。

生まれたての赤ちゃんパンダは、毛が生えていないピンク色の肌で、目も開いていません。野生でも飼育下でも、2カ月間は母パンダはいつも赤ちゃんを抱いたり温めたりして放さずに育てます。少し移動するのにも赤ちゃんを口にくわえて、片ときも離れないのです。

生後1ヶ月の赤ちゃんパンダ
生後1ヶ月の赤ちゃんパンダ(引用: リセマム
口にくわえて連れ出そうとする母パンダ
口にくわえて連れ出そうとする母パンダ
(引用: アドベンチャーワールド

パンダの赤ちゃんの危機と成長

生まれたばかりの赤ちゃんの手足はとても弱いので、立ち上がることができません。そんな赤ちゃんなので母パンダに、誤って押し潰されることがあります。それだけでなく生存率が低く、病気になったり、死んでしまう可能性もあるのです。 赤ちゃんパンダは鳴き声で母パンダにメッセージを伝えます。お乳を飲みたいとき、寒暖で体調が悪い時、排便したい時など異なる鳴き声で母親の気持ちを自分に向けさせます。母パンダは赤ちゃんをなめて、排便を助けたり、抱いて母乳を飲ませながら自分だけで育てます。

生後7日の赤ちゃんパンダ
生後7日の赤ちゃんパンダ(引用: アドベンチャーワールド
生後19日の赤ちゃんパンダ
生後19日の赤ちゃんパンダ(引用: アドベンチャーワールド
生後7日   耳や目の周り、肩に黒みがかった毛が生えはじめます。
生後25日首や胸のあたりが黒い毛で被われます。目の周りに大きな茶色の輪ができると同時に白い毛が生え始め、見た目に白黒の区別がつくようになります。
生後1か月体重が約2kgになります。1.5~2か月で目が開きますが、まだよく見えてません。
生後3か月目が見え始めます。乳歯が生え始めます。手足がしっかりしてゆっくり1mくらい歩けるようになります。でもまだフラフラしてころびます。体重は5~6kgになります。
生後4か月少しだけ走り始めます。良く転がって遊びます。
生後6か月親をまねてタケを食べる練習を始めます。この頃から成長が速くなります。木に登るようになります。
生後10か月永久歯が生えそろいタケをバリバリ食べて、あまり遊ばなくなります。満腹になったら寝て空腹になったら起きるというパンダらしい生活をするようになります。
生後1年1歳になる頃までには離乳しますが、乳離れしても母親が妊娠するまでは、一緒に暮らします。妊娠しなければ2歳まで一緒にいますが、最後はひとり立ちさせます。この頃には体重は40kgほどになります。

体重は2年で約60kg、3年で90kg近くになり、メスは4~5歳で約100kg、オスは6~7歳で約120kgで大人になります。未熟で100~200gしかなかった赤ちゃんが1000倍にも成長するのです。
パンダの寿命は野生で20年、飼育下で30年です。野生だと一生に5~6頭の赤ちゃんを出産しますが、双子を生むと大きい1頭だけしか育てません。飼育下では1頭を保育器で育てながら、母乳を飲ませるため母パンダの気をそらしておいて、赤ちゃんを入れ替えます。ある程度大きくなったら2頭とも母パンダに渡します。母親はコドモが増えて不思議に思うかはわかりませんが、結局は受け入れます。
数ある動物の中でも、人の心を和やかにしてくれる上位に入るのがパンダでしょう。見た目にも動作にも思わず笑みがこぼれます。それはパンダ自身のためというより、触れ合う人間を前提にして出来上がっているものが多いからだと思いませんか。パンダにとってはさほど意味のないものが、果たして偶然にできるものでしょうか。パンダを見て喜ぶ存在のことまで組み込んだ設計図がなくしては、このようなパンダが生まれることはなかったろうと思えてなりません。


<引用資料>

● 成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地
  https://www.panda.org.cn/jp/

● アラチャイナ
 『パンダの赤ちゃん』
  https://www.arachina.com/giant-panda/baby-panda.htm

● 「ジャイアントパンダの自然史と保全生物学」JRD2005年2月号(vol.51, No.1)掲載
  (著者/Barbara Durrant 翻訳/赤木智香子、坪田敏男)