すごすぎるアリたちの話 ① 他のアリにどれいにされる残念な生き物?

クロヤマアリについて「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」では次のように書かれています。

クロヤマアリは数が多く、働き者のまじめなアリです。でも戦闘能力が低いため、ほかのいろいろなアリのどれいにされてしまいます。
「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」P105

たしかにクロヤマアリは、アカヤマアリや特にサムライアリに巣をおそわれ幼虫やサナギをさらわれて、そのままサムライアリの巣で働くようになります。

その状況だけを人間的な見方で表現すれば、どれいにされた残念な生き方だと言えるのかもしれません。

でも本当にそうでしょうか?

実際何が起こっているのかアリの目線で見てみると、実はどれいどころか相手を生かすために一生懸命働いているのがわかります。

そしてそれを可能にするための驚くべきメカニズムが、アリの中には備わっているのです。

今回はそんなアリたちの感動のすがたを見てみましょう!!

サムライアリってどんなアリ?

サムライアリもクロヤマアリも日本では普通に見かけるアリです。  

サムライアリは体長5ミリくらいで黒色、クロヤマアリと近い種類なので見た目はほとんど同じです。

違うのは大あごの形です。クロヤマアリの大あごは三角で内側がギザギザになっています。

ところがサムライアリの大あごはクロヤマアリより大きく、細い鎌状で内側のギザギザもあまり見えません。

サムライアリの女王の頭部
(引用: 森林総合研究所 森林生物情報「サムライアリ」)
サムライアリ
引用: アントルーム「写真館」

サムライアリの成虫(体長5~7mm)

クロヤマアリの頭部
引用: 森林総合研究所 森林生物情報「サムライアリ」
クロヤマアリ
引用: アントルーム「写真館」

クロヤマアリの成虫(体長4~6mm)

この形状は戦士としての能力に特化して出来ているので、他の場面では何の役にも立ちません。

つまり、掃除も幼虫の世話も出来なければ、自分で食べ物をかむこともできないから食事もできないのです。

えーっどうやって生きてくの!! だからクロヤマアリの助けが必要なんです。

クロヤマアリはそこを自分の巣だと思い込み、自分を誘拐した敵のために一生けんめい働き続けるのです。
「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」P105

クロヤマアリがいなければ、今ごろサムライアリは絶滅していたことでしょう。敵を敵とも思わず、献身的に相手のために生きるクロヤマアリは、ざんねんどころか、利己的な人間に愛の形を教えてくれているようです。

サムライアリが、進化の結果今の姿になったということには、実は進化論者の皆さんも首をかしげているようです。

だって自分に何のメリットもない、生きていくことも難しくなるような方向に向かう進化ってあるんですか?

これはサムライアリ単体として考えたら決して答えは出ないでしょう。でも視点を変えて、アリという種全体を一つの生命体として見たらどうでしょう?

自分では食べることも出来ない、そんなアリがいても、他のアリが別のアリに食べさせてあげるという不思議な習性があるので、アリ社会は全体としてみんなが生きていける機能をもつことができるのです。

その習性をくわしく説明するのは次回にして、今回はまずクロヤマアリの生態を調べてみたいと思います。

クロヤマアリは花が好き

アリの活動のエネルギー源は花の蜜の糖分です。

小さな体で花の奥にもぐりこんで、せっせと舌を使って花の蜜を集めます。

アリは近眼で、花の色や形はわからないのに、どうやって花を見つけたり、えらんだりして蜜を集められるのでしょう?

そこには、アリを必要とする花の戦略があるのです。

花は、おしべの花粉をめしべにつけて、受粉しなければ実をつけられませんが、自分の力だけでは受粉できません。

それで甘い蜜のにおいでアリたちを呼び寄せているのです。

アリの体に花粉をつけて、めしべに受粉するのを手伝ってもらうためです。

オオイヌノフグリの蜜をなめるクロヤマアリ
オオイヌノフグリの蜜をなめるクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 表紙)
オオヘビイチゴの蜜を集めるクロヤマアリ
オオヘビイチゴの蜜を集めるクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P2)
ハハコグサの蜜をなめるクロヤマアリ
ハハコグサの蜜をなめるクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P4)
カクトラノオの蜜を集めるクロヤマアリ
カクトラノオの蜜を集めるクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P10)

それだけでなく花の外にも蜜腺(みつせん)があるので、そのにおいに誘われてたくさんのアリが通ってきて、枝や茎をのぼりおりします。

すると他の虫は近づけないので、植物は葉を食べる害虫から身を守れるわけです。

桜の葉柄(ようへい)の花外蜜腺
桜の葉柄(ようへい)の花外蜜腺
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P5)
カラスエンドウの小さな葉の形の花外蜜腺
カラスエンドウの小さな葉の形の花外蜜腺
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P5)

花にとって花外蜜腺(かがいみつせん)はただアリを呼ぶためだけにあるのです。

アリどうしも助け合っていますが、アリと植物もおたがいに相手の役に立ちながら自分も助けられているんですね。

こんなに計算されたような関係が、偶然の積み重ねの進化で出来るものでしょうか?

自然界全体を調和させる大きなプログラムによって、それぞれの役割が与えられていると思いませんか?

クロヤマアリは肉食性!

花の蜜の糖分はアリの活動のエネルギー源ですが、体づくりのための養分にはタンパク質が必要です。

そのためアリは死んだ虫などを集めます。

アリには生きた大きな虫をとらえる武器がありません。

自分より小さな虫を大あごでかみついてとらえるか、弱った虫を蟻酸(ぎさん)で攻撃してやっつけるしかありません。

それよりは死んだ虫を集めるほうが効率的(こうりつてき)です。

クロスズメバチの死体をはこぶクロヤマアリ
クロスズメバチの死体をはこぶクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P12)
コガネムシの幼虫に群がるクロヤマアリ
コガネムシの幼虫に群がるクロヤマアリ
(引用: 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社 P29)

死んだ虫をみつけても、小さなアリにとっては運ぶのが大変な仕事です。

仲間を呼んで協力して運ぶアリたちもいますが、クロヤマアリは仲間の出入りが多い巣のすぐ近くでない限り、共同作業はしません。

だからクロヤマアリは力持ちです。体重は0.004gしかありませんが、体重の5倍の重さのエサをくわえて運べますし、体重の25倍の重さのエサを引きずることが出来ます。

そうやって手に入れた食べ物を、アリたちはどうやって貯蔵するのでしょうか?

実はそこにクロヤマアリがサムライアリを養える秘密があるのですが、それは次回に説明いたします。


<引用資料>

● 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社(文/小田英智 写真/藤丸篤夫)

● 森林総合研究所 森林生物情報 『サムライアリ』
  https://db.ffpri.go.jp/BioDB/BioDB-L/browserecord.php?-action=browse&-recid=216

● アントルーム 『写真館』
  http://antroom.jp/photo.php