シマウマ④ とてつもない攻撃性を持つシマウマ

アフリカでは餌や水のある場所が季節によって変化するため、乾季が始まるころになると数十万頭のシマウマや約200万頭のヌー、ガゼルやエランドなど、いくつもの群れが合流し、巨大な大群になり、雨を追って移動します。シマウマは1頭のオスを中心に複数頭のメスと血縁のコドモで形成される群れになることが多く、時にはヌーやキリンといった他の動物と混じった群になることもあります。こういった混合の群れの場合には100頭を越えることもあります。

シマウマは かなり足が速い!!

草食動物は大きい蹄を持っているので常に長い時間を走ることができます。蹄は走る時に衝撃を和らげるクッション性もあるので蹄のない肉食動物より持久力があり、ライオンなどの自分を食べる捕食者から逃げ延びるのに有利な形なのです。

また、新しい餌場を求めて長距離を移動するのにも、持久力が必要になります。草食動物は群れで生きる動物です。数が多ければそれだけ捕食者に狙われるリスクは低減するし、多くの目があれば捕食者を察知することも容易です。ただしエサはすぐになくなってしまいます。そのため群れは定期的に餌場を求めて場所を移動しなければなりません。そんなときに長距離を走ることのできる持久力がとても重要なのです。

捕食動物から逃げるとき、シマウマは巧みにジグザグに走って追跡をかわします。それだけでなく足が速く時速65kmという驚異的なスピードを出すことができます。平均速度が時速60kmのライオンでは追いつけません。しかもシマウマは何キロも走り続けられるほどのスタミナがあって、走り続けているうちにどんどんスピードが上がります。一方のライオンはスタミナが圧倒的に不足しているため、オーバーヒートを避けるために途中で追撃を止めなければならないのです。

ライオンから逃げるシマウマ
ライオンから逃げるシマウマ(引用:中高生版ストレス講座(2)

シマウマは速いだけではない!!

ライオンやチーターは全速力で逃げるシマウマとの距離を詰めることに長けているため、シマウマが速く走ることは命取りになります。全速力で逃げるとそれ以上加速することができないので、捕食動物に動きを読まれてしまうからです。そのため、いきなり逃げるスピードを落として捕食者を幻惑するという意外な行動をとるのです。

ライオンやチーターの運動能力は草食動物に比べてはるかに高く、筋力も上回っているにもかかわらず、捕獲率をみると3回に2回は取り逃がしています。それはシマウマがうまく立ち回って逃げ切っているからです。はるかに能力が勝っているライオンやチーターであるにもかかわらず、追われたシマウマが予測不能の動きをするため取り逃がすのです。シマウマはライオンが後方1,2歩のところまで迫り、カギ爪が目いっぱい伸ばされた土壇場で急に方向転換をします。シマウマはただ逃げるのではなく、不意に動きを変えることが生き残りに有利に働くことを知っていて行動しているのです。

シマウマのキックは殺人級

もしライオンがシマウマに追いついたとしても、狩りがうまくいくとは限りません。シマウマは速いだけでなく、非常に危険な武器をもっているからです。シマウマの最大の武器は「後ろ蹴り」。後足で蹴って反撃する強力なキックです。その強力なキック力でライオンに痛手を負わせ、撃退することもできるのです。後ろの蹄からの強烈なキックは一撃でライオンの頭蓋骨を粉々にしたり、背骨を折ったり、怪我を負わせて行動を不能にさせるのです。かみついたり、立ち上がって前足で蹴ったりもします。後蹴りのイメージが強いシマウマですが、前足の蹴りも非常に強く、致命傷になることもあります。

ウマ科に属しているシマウマとウマとロバの3種は、互いに掛け合わせできるほど遺伝的に近縁です。それなのに、ウマやロバは世界中で家畜化されていますが、シマウマが人間に飼いならされている例はありません。気が荒く、人には馴れにくくて、家畜として利用されることがありませんでした。シマウマだけは人間に服従することを拒み続けてきたのです。シマウマは常にライオンやチーター、ハイエナなどの捕食動物に囲まれて野生の中で「戦うか逃げるか」の選択で生きてきました。ですからウマに比べて攻撃的で、戦闘意欲が強いのです。もしシマウマを追い詰める人間がいれば、噛みついたり蹴とばしたりして殺そうとしてくるでしょう。アメリカの動物園で飼育員に怪我を負わせる動物は、シマウマがダントツに多いそうです。シマウマの攻撃性があまりにとてつもないので、シマウマの遺伝子を調べた研究者がいたほどですが、結局その攻撃性を決定づけるものは見つかっていません。

シマウマの歩きは蹄行性

蹄行(ていこう)はかかとを浮かせて、蹄(ひづめ)だけを地面につけた爪先立ちの状態で、直立して歩行することをいいます。爪先立ちになることで脚全体が長くなるので、高速で移動するときに有利です。

ウマの祖先は指が5本ありましたが、天敵の肉食動物から逃げるときできるだけ早く走れるように1本指になりました。中指にあたる第3指だけを残して両側の指の骨は縮小して癒着しました。そして中指の爪が蹄になったのです。他の4本の指を失くすことによって軽量化し、足首より先の骨が長く伸びることによって足が長くなり、歩幅も大きくなりました。そのようにして、長くなった1本指の爪先立ち状態で地面を蹴り、草原を疾走する現在の歩行の形が出来上がっていったのです。

シマウマの骨格(足)

オレンジ色の部分をひざだと思っていませんでしたか?
実はここが足首なのです。よくみると関節がヒトとは逆に曲がっています。
中指の爪が蹄になりました。
中指1本でつま先立ちしています。
シマウマの骨格(足)
(写真:ふたばのブログ「天王寺動物園で骨格について学ぶ①」

シマウマの蹄は大きな体を支え、足を痛めないようにするために必要であり、速く走るため強く地面を蹴るなど、体の重要な部分です。ウマやシマウマなどの奇蹄目は一つの強靭な蹄に囲まれた一本の指を持つ動物なので、爪先だけをつけて歩く蹄行性の歩行をしています。

シマウマの蹄

[シマウマの蹄]
ウマとロバとシマウマは蹄が1つの奇蹄目。
品種改良で蹄が軟らかくなった家畜と違い、野生種は過酷な自然環境に耐えられるだけの強度と機能を維持している。
かかとの部分が大きく、クッションとなる組織があり脚が疲れない構造になっている。
(写真:理科便覧ネットワーク「草食動物」

シマウマの多くはアフリカ大陸に生息していて、比較的平らで、短い草が生えた乾いた土地で暮らしています。ウマの仲間ですが、蹄は家畜のウマに比べ、とても硬くなっています。硬い蹄と疲れない脚があるからこそ、アフリカの大地で生活できるのでしょう。

シマウマはまだまだ解明されていない秘密がある動物です。これからも調べていくと面白い発見があるかもしれません。


<引用資料>

● 中高生版ストレス講座(2)
  https://www.stresscare.com/student/learn_02.html

● ふたばのブログ
 『天王寺動物園で骨格について学ぶ①』
  https://futabagumi.com/archives/851.html

● 理科便覧ネットワーク「草食動物」
  https://www.hamajima.co.jp/rika-binran/term/?/term/13302

● 上毛新聞「視点オピニオン」
  https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/75437