すごすぎるアリたちの話 ④ サムライアリの乗っ取り作戦
多くの種類のアリは、結婚飛行を終えた新女王が自分だけで巣を作り、卵を産んで働きアリを育てるところからはじめます。
サムライアリの女王は?
ではサムライアリの女王アリはどうでしょうか?
1回目に書いたように、サムライアリは掃除も幼虫の世話も出来なければ、自分で食事もできない体の構造になっているのですから、自分だけで働きアリを育てられるはずがありません。
そこで、サムライアリの女王アリは驚くべき行動にでます。単身でクロヤマアリの巣に乗り込んでいくのです!!
普通、アリが他の巣に乗り込むときは、働きアリや兵隊アリをひきつれて大勢でたたかいますが、なんと、サムライアリの新女王は単独で侵入します。
当然、クロヤマアリの働きアリたちの激しい抵抗にあい、攻撃されます。
しかし武器をもたず、体も小さいクロヤマアリと、戦いに特化された鎌のような大あごをもつサムライアリでは結果は目に見えています。
サムライアリの女王アリは襲ってくるクロヤマアリをけ散らしながら前進して、巣の奥の女王アリの部屋に侵入します。クロヤマアリの女王は、サムライアリの女王アリの強いあごで咬(か)まれて、死んでしまいます。
すると、巣の中では劇的変化がおこります。それまで抵抗していたクロヤマアリの働きアリたちが、何事もなかったかのようにおとなしくなり、サムライアリの女王に近づいて、これまで自分たちの女王にしていたようにグルーミング(みづくろい)をはじめるのです。

これはサムライアリの女王が、クロヤマアリの女王の傷からしみだした体液や、相手の体の表面のワックスを自分の体に塗りつけたからです。
昆虫の体表面には炭化水素の混合物のワックスがついていて、アリなどの社会性昆虫の場合、同種でも巣が違うとワックス成分が変わり、仲間かどうか見分けられます。
サムライアリは、自分のワックスはほとんど出しませんから、その習性を利用して、相手のにおいをつけクロヤマアリの女王だと思わせたのです。
サムライアリの平和的乗っ取り
しかし、クロヤマアリの女王を殺さずに、サムライアリの女王が一緒に住んで、自分もクロヤマアリの働きアリたちの世話を受けるというやり方でも巣作りをしていることがわかってきました。
クロヤマアリの女王を殺してしまえば、クロヤマアリの卵が産まれず、サムライアリの世話をする働きアリが減ってしまいますから。
最初は、においが違うのでクロヤマアリの働きアリたちが盛んに咬みついたりしますが、女王アリはジッと我慢して相手のするままになっています。ところが、三日くらいすると、クロヤマアリは攻撃にあきるのか、本来の職責(しょくせき)に目ざめるのか、敵の女王にエサを持ってきたりサービスを始めます。そこでサムライアリの女王は卵をどんどん産むようになります。
近年、クロヤマアリの巣には複数の女王が存在することがわかってきました。巣から飛び立った新女王アリを、働きアリたちが連れ戻して、自分たちの巣の女王をふやして巣を大きくしているのです。女王の産む卵の数は、巣の大きさに比例してふえていきます。
サムライアリが生きられる理由

クロヤマアリがマユの世話をしている。(引用: 岐阜のアリ,「サムライアリ」, https://kinomari-formica.amebaownd.com/posts/4068246)
クロヤマアリの巣で女王になったサムライアリの女王は、クロヤマアリの働きアリから栄養をたくさんもらい、クロヤマアリの巣でサムライアリの産卵(さんらん)だけに専念(せんねん)します。
クロヤマアリの働きアリが、サムライアリの卵を大切に世話して育てるので、自分では食事も できないサムライアリたちがどんどん生まれてきます。
サムライアリはクロヤマアリにおねだりして口移しでエサをもらいますが、ふだんは体を休めていて何もしません。どれい狩りをするアリは何種類かいますが、どの種類の働きアリも少しは仕事をします。まったく働かない(働けない?)のはサムライアリだけです。
子育てや食事だけでなく、女王の世話、巣の掃除、エサ集めなど、なんでもクロヤマアリがやります。つまり、クロヤマアリがいなければサムライアリは生きていけないのです。サムライアリの自然の巣では、アリの8割がクロヤマアリだったそうです。
アリには、同じ巣の家族にはエサを口移しで分けあたえる習性があり、働きアリたちは、エサ集めも子育ても掃除も、家族のために一生懸命にするので、そのおかげでサムライアリは生きていけるのです。
面倒を見てくれるアリがいないのに、サムライアリのように何ひとつ自分で出来ないアリが誕生したら、すぐに絶滅してしまいます。
サムライアリは偶然生まれた?
サムライアリを生かしてくれる環境があるので、サムライアリが誕生したと言ったら言いすぎでしょうか?
でも、どのアリも自分をアピールする固有のワックスを出しているのに、サムライアリだけは、自分のワックスはほとんど出さないで、どのアリの巣の家族にでもなれる能力を生まれつき持っているのは、その環境を有効活用して生きるためだとしか思えません。
つまり、サムライアリのようなありえない生態のアリが生まれたのは、決して偶然ではなく、アリ全体がひとつの生命体として機能するように計算された設計図があって、その一部としてサムライアリが組み込まれプログラムされたからだと考えるのが一番納得がいく答えではないでしょうか?
クロヤマアリは1年ほどで死んでしまうので、働き手がいなくなったサムライアリたちは新しくクロヤマアリを連れてくるためにクロヤマアリの巣を襲うのです。その襲撃の話は次回にします。
<引用資料>
● 自然の観察事典⑮「アリ観察事典」偕成社(文/小田英智 写真/藤丸篤夫)
● デイリー新潮 えげつない寄生生物(成田聡子)
『他国の女王を殺し家臣を奴隷化するサムライアリの極悪非道な国盗り物語』
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/06210700/
● 岐阜のアリ
https://kinomari-formica.amebaownd.com/
● 「ありとあらゆるアリの話」講談社(久保田政雄)
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません