オランウータン④ ゆっくり確実に一子を育てる
オランウータンは地球上でもっとも繫殖スピードが遅い哺乳類です。オランウータンはゆっくり確実に一子を育てるので、双子の出産例はほとんどありません。コドモの時期を過ぎると、オランウータンの死亡率は低くなるので、それでも種を維持していけるからです。
ところが、生息地が破壊されたりして、生息数が激減すると、そのために個体数を回復するのがとても難しくなります。今は経済発展のために、急速に熱帯雨林の消失が進み、生息地がどんどん減少しているのが現状です。
絶滅の危機!! オランウータン
国際自然保護連合がまとめた「レッドリスト」では、スマトラオランウータンはより深刻な「近絶滅種」、ボルネオオランウータンは「絶滅危惧種」に指定されています。
オランウータンは、主な食べ物を果実などの植物食に頼っており、なにより樹上を生活の場としているため、森林が破壊されると生きていくことができません。人口の増加に伴う居住地や食糧の増産、ヤシ油生産のためのオイル・パーム・プランテーション(油ヤシ農園)の建設などにより、大昔からあった自然の森が伐採され、オランウータンの生息地は、減少し続けています。
現在、オランウータンの生息地は、ボルネオ島では東北部と西南部に分断され、スマトラ島でも北西部の小さな地域にしか残っていません。しかも、残された森林も分断されつつあります。分断化が起こることで、オランウータンの遊動域が狭くなり、結果、食べ物の種類が減ってしまいます。人間がいろいろな食材を必要とするように、オランウータンもいろいろな食物源が必要ですから、さまざまな果樹が分散する、広大な生息地がなくなることは、オランウータンにとって致命的なのです。
それだけでなく、分断で、そこに生息する大型動物の移動が困難になりますから、オランウータンは他の個体との交流ができなくなり、繁殖するための相手まで失ってしまいます。
オランウータンのオトナは自分の生まれた森林を離れていかなければなりません。特にオスは、近親交配による繁殖を避けるため、遠くへ離れます。分断された中でそれをするには、オイル・パーム・プランテーションを横切るしかありません。しかし、プランテーションで人間に見つかると、害獣としてその場で殺されることが多いのです。
西暦2000年の時点で、オランウータンの生息地は、もともとの面積の約80%が失われたと推定されていますが、生息地の大規模な減少・改変は今も続いています。1980年代から頻繁に起こるようになった森林火災の影響もあって、生息環境はますます狭められています。
オランウータンの個体数は、スマトラ島では、過去75年あまりの間に80%も減少。ボルネオ島でも、過去60年の間に個体数が半分になったと考えられています。
オランウータンは少子社会
メスは10~15歳程度で性成熟しますが、野生では最初の子を出産するのは、その数年後です。生涯に産むコドモの数はせいぜい4~7頭で、野生動物としては異例な少子社会です。
出産間隔は霊長類ではもっとも長く、6~9年に1回です。つまり、オランウータンのメスは6~9年に1度だけ発情し、その時期だけ1カ月に1回排卵して、その前後2~3日間だけ受胎可能になるわけです。このときは自分からオスに近づいて交尾することもあります。
メスはフランジオスと積極的に交尾するため、アンフランジオスは強制的にメスを押さえつけて交尾することが多いともいわれていて、この行動を「レイプ」と呼ぶ研究者もいるそうです。
DNAによる父子鑑定では、アンフランジオスもフランジオスと同じくらいコドモを残しているとわかっています。メスは交尾可能期間中、複数のオスと交尾するので、父親が誰かはDNAを調べないとわかりません。
妊娠期間は平均245日(約8ヵ月)で、1回の出産で1頭だけ生みます。コドモが主な栄養を母乳に頼る授乳期間は、2年半から3年ですが、固形物から栄養を取れるようになっても、しばらくは母親と一緒に行動します。生後5~7年で、ようやく母親から離れて行動し始めます。
メスは、コドモが5~7歳になると、果実生産が増えるより前に排卵が戻って、果実が実るときには妊娠しています。こうして、妊娠中にたくさんの果実を摂って脂肪を蓄えることで、よりエネルギーを必要とする授乳に備えているのでしょう。
母親だけの「孤独な子育て」
オランウータンは単独性が強く、家族も群れも作らずに生活します。ですから、当然子育ても母親だけで、オスは一切関与しません。母ひとりで子を見るという意味で、孤立していて「孤独な子育て」になります。
でも、オスにとっては乳幼児の頃、母親と一緒にいるときが唯一の「一人でない」時期であり、メスにしてみるとそれに加えて、自分が子育てしている時期がそうなります。 それだからかわかりませんが、単独行動が基本のオランウータン同士でも、採食する木の近くでバッタリと出くわすことがあると、お互いにコドモがいたら、コドモのなすがままに遊ばせるのだそうです。そのため食べる時間が減って、摂取カロリーが減ることになっても。
食べるのが終わって、休んでいるときにコドモが遊びに行くと、母親はその間、遊び終わるのをただ待っています。ときどきチラッチラッと様子を見て、「ああ、まだ終わらないわ」みたいな顔をして、じぃーっと待っている母親の忍耐力は、人間から見るとスゴイものがあります。
オトナメスは「孤独な子育て」を、何年かのサイクルで繰り返しながら、一生を終わります。それを放棄せずに続けられるのは、オランウータンの子育てが人間のように手がかからないからだとか。オランウータンのコドモは人間と違って、かわいいだけで、騒がないし、要求しないし、親にかける負担が少ないからだそうです。動物園などの人工飼育の場では、家
族が一緒に生活していますが、野生では家族も群れもつくらず、単独で生きるオランウータンなので、そうなるのでしょうか。
人間の子どもは多くの人とかかわり、多くの愛を受けて育たなければ、心が成長しないし、社会生活をするのが難しくなります。だから、人間の子育てはオランウータンと違って、手がかかるのかもしれません。
人間に近い霊長類だといわれるオランウータンですが、その生き方の違いは、人間に「人の間で生きる」存在としてどうしたらいいのかを教えてくれているのかもしれません。
<引用資料>
● 特定非営利活動法人 日本オランウータン・リサーチセンター
『オランウータンについて』
https://www.orangutan-research.jp/orangutan.html
● フィールドの生物学⑪「野生のオランウータンを追いかけて - マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者」東海大学出版会(著者/金森朝子)
● あさがく選書「オランウータンってどんな『ヒト』?」朝日学生新聞社(著者/久世濃子)
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