シマウマ⑤ 強い警戒心で人に懐かない
前述したように、シマウマが縞模様を持った理由として ① 虫を寄せ付けないため ② 目の錯覚を利用してカムフラージュするため ③ 捕食者を惑わすため ④ 体温を調節するため ⑤ 個体同士の識別のため という5つの仮説が考えられています。
シマウマの黒白の縞模様は遠くからでも目立つように思われますが、実際は保護色の役目を果たしているのです。動物園などでも、シマウマが集まって固まっていると、本当は何頭いるのか数を数えるのが意外に難しいのがわかるでしょう。
上の写真を見てください。いったい何頭のシマウマがいるか数えられますか?
これは以前富士サファリパークの公式Twitterに掲載された、シマウマの写真をもとにした、ちょっとユニークなクイズです。また下の写真を見て各個体の形を見分けられますか?
これらの写真を見ると②③の説に納得がいきますよね。
シマウマの縞模様は種類によって違います。また同じ種類であっても柄は一頭一頭異なっています。見た目まったく同じような柄であっても縞模様は全ての個体で違っているのです。よく見ると足の付け根の柄だけがちょっと違っていたりして、同じ柄はありません。短くて立っているたてがみも、シッポも縞模様になっています。
人を拒む野生の血を持つ
シマウマは、オスもメスも気性が荒く、群れの中の個体同士でも噛み合ったり前足で蹴り合ったりして戦うことがあるくらいですから、神経質で警戒心が強くて人間に懐きませんでした。
シマウマがこれほど強い警戒心を持つようになった理由については諸説があります。そのひとつが、人間とシマウマはアフリカで何百万年にもわたり共に生活し、シマウマを捕えて殺しては食糧にしてきたというもので、その証拠も残っています。そのためシマウマは人間のことを危害を及ぼす悪い存在であると認識して強い警戒心を持ったというのです。このように人間とシマウマの関係はよくないもので始まりましたが、実はシマウマ自身にもっと大きな問題があるのです。
それはシマウマは生き残るために性格が悪くなってしまったということです。アフリカにはシマウマの天敵のライオンやハイエナなど強力な肉食動物が多くいるので、シマウマは身を守るために警戒心と戦闘意欲が強く、ウマに比べてずっと攻撃的な性質になっていったと考えられています。またシマウマは、群れで生活する野生のウマとは異なり、家族関係や上下関係を持ちません。これが他者との協調性を、ひいては人との信頼関係を築けない大きな要因になったと思われます。しかしいずれにしても、シマウマがとてつもない攻撃性を持つ理由は、まだはっきりわかっていません。
シマウマが人間に対して恐れを抱く性質があるのに対して、ウマはずっと後になるまで人間に出会うことも殺されることもなく、シマウマのように人に恐れを抱かず共存してきたと考えられます。約1万2000年前に農耕が始まり、人間はウマを家畜化しておとなしい個体を選択的に繫殖させてきました。
しかしシマウマは、広大なサバンナで天敵に悩まされて生きてきたので、危険に敏感で捕獲されることをとても嫌がります。外見はウマに似ていても、シマウマには弱肉強食のアフリカの地で育ったDNAが深く刻み込まれていて、人間に服従することを拒み続けてきました。子どものころから大切に育てても、年を取るにつれて気性が荒くなり、手がつけられなくってしまうというやっかいな性格をしています。気性の激しいシマウマは頭が悪いのか、学習能力がないのか、ただ単に頑固者なのか、まったく人の言うことを聞きません。走らせようと思っても走らないし、止まらせようと思っても止まらない。人間の指示などどこ吹く風なのです。
そういう性格に加え、シマウマの体格はウマと比べて小さく、さらに背骨の骨格も貧弱なため、人が乗ったり、重い荷物を運ばせたりするのには適していません。またシマウマの首は太いので、手綱を使っても方向を変えさせるのは簡単ではありません。 それにシマウマは意地悪なうえ、疲れてもやり続ける根気もないので もし人がうまく乗ることができたとしても、すぐに地面に落とされてしまうでしょう。それでシマウマは家畜化されることはなく野生のまま残されました。
ヨーロッパの植民者たちはシマウマを飼い慣らそうとして、幾度となく失敗したことから「シマウマは単なる縞模様のウマではない」という教訓を残しました。確かにこの言葉通り、ウマは世界中で家畜化に成功していますが、シマウマでは少数の成功例はあるものの、大部分のケースで失敗に終わりました。シマウマが荷車を引いたり、馬車になった例はほとんどありません。そのため現在ではシマウマに乗ろうとする人はほとんどいなくなりました。
縞模様は何のためなの?
縞模様で捕食動物から身を守れるなら、もっとたくさんのシマシマ動物がいてもいいと思いますが、実際はそうなっていません。後になってから肉食動物の目では縞模様がハッキリ見えないことが判明しました。つまりシマウマが縞模様であることは、捕食者から逃れるためにはそれほど意味がないということになります。
シマウマの縞模様は何のためにあるか、この謎は1870年代以降イギリスの自然科学者チャールズ・ダ-ウィンとアルフレッド・ウォレスが火付け役となって、長い間科学者や生物学者らが進化論の議論の中で論争し続けてきましたが、未だ明白な答えは存在していません。
縞模様がシマウマの保身に役立たないなら、何故シマウマは縞模様をしているのでしょう。シマウマ自身のためでないとするなら、それは誰のためなのでしょうか?縞模様も色彩も見分ける能力を持っていて、シマウマを眺めて喜び感動することができる存在、つまり人間のためにあると考えてみたら、進化論では説明のつかない、様々な疑問がスッキリ解けると思いませんか?
ところで、最初に紹介したシマウマの写真の答えはわかりましたか?下の写真に回答を載せましたがシマウマの数は7頭です。縞模様が捕食動物の目をくらましてシマウマを守ってくれるのです。
<引用資料>
● 理科便覧ネットワーク「草食動物」
https://www.hamajima.co.jp/rika-binran/term/?/term/13302
● 動物おもしろ雑学集
『シマウマは気性が荒く学習能力がないので競馬には向いていない』
https://zooing.honpo21.net/archives/565
● 富士サファリパーク公式X
https://twitter.com/fuji_safari1980
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