ダチョウ③ 驚異!ダチョウの強靭な体

ダチョウの群れ2

強い種を残すダチョウの知恵

サバンナに生息するダチョウは、乾季に卵を産みます。産むときは、オス1羽にメス5羽でハーレムを作ります。繁殖期に5羽のメス同士が闘い、勝った順にオスが地面に掘った窪みに卵を産む順番を決めるのです。勝った者が窪みの中央に卵を産みます。そして周辺にその他のメスが卵を産みます。その理由は、天敵のエジプトハゲワシにわざと周辺の卵を襲わせ、中央の卵を守るためです。1羽のメスは、一度に卵を2~6個産み、一年で40~50個程度産むといわれています。サバンナの乾季に気温が50度にもなる中、昼間はメスが卵を温め、夜はオスが温めながら根気よく卵を守ります。

サバンナの乾季が過ぎ、短い雨季が始まる頃に、卵からヒナがかえります。その頃にダチョウは巣を移動するのですが、ヒナになれなかった卵はそのまま残して移動します。巣を移動した後、メス同士がヒナを奪い合います。これは、我が子を天敵から守るために、おとりのヒナの数をできるだけ増やして、我が子が襲われる確率を低くする為です。ダチョウのヒナの生存率はとても低く、1歳まで生き残れる確率は2割だといわれています。天敵のジャッカル、ハイエナ、空からはエジプトハゲワシなどからヒナを守り抜くために、卵の時と同様に、違う群れのヒナを奪ってでもおとりを増やしながら、より強い1羽、より強い種を残そうとしているのです。このことから、1羽がいかに大事であり、選ばれ抜かれた存在であるかを知ることができます。

また、ダチョウは、家族連れのオス同士が出会うとよく喧嘩をします。その結果、負けたオスは家族を失い一人ぼっちになってしまいます。家族が勝ったオスに付いて行ってしまうのです。さらに、子供が群れからはぐれてしまった時は、近くで大きなダチョウを見つけて付いていきます。そのダチョウも付いてくることを嫌がることなく、受け入れて一緒に生活するようになります。このような内容は、倫理観を重要視する人間には理解し難いところがあります。しかし、この強い者を優先する潔さや、身内で闘いながらも協力し合う姿は、サバンナのような厳しい環境で生き抜いていくために代々受け継がれてきた、驚くべきダチョウの「知恵」であると言えるでしょう。

ダチョウの巣
ダチョウの巣(引用:Alina Zienowicz (Ala z), e-mail – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16245907による)

うらやましい免疫力

ダチョウは私たちがびっくりするくらい頑丈な体を持っています。高い自己治癒力を備えており、けがの回復が非常に早いことで知られています。体に血まみれの大けがを負ったとしましょう。人間だったらどうでしょうか?かなりの重傷で、治療を受けながら完治するまで多くの時間を要します。しかしダチョウにとっては、なんてことはないのです。特別な治療を受けずに、傷口から感染症を起こすこともなく、数日で治ってしまいます。では、この高い回復力の秘密はどこにあるのでしょうか。

京都府立大学学長で獣医学博士の塚本康浩氏は、ダチョウには優れた免疫力があることを発見しました。

ひとつは、ダチョウの血液には抗酸化作用のある物質が多く含まれていることです。私たち人間を含む動物の体は酸素を利用してエネルギーを作りだすと同時に、活性酸素が常に体内で生じています。しかし、この活性酸素によって体内の細胞が傷つけられ、それが病気の原因になってしまうのです。この活性酸素の活動を抑える仕組みを抗酸化作用といいますが、この抗酸化作用のある物質を多く含む血液を持ったダチョウは、体を守る免疫力が高いということにつながります。アフリカのサバンナや砂漠に住むダチョウの主食は、サバンナに生えている草や植物の種、又は土の中にある根っこなどで、これらの植物から水分までも補給しています。厳しい環境においては、昆虫、トカゲなどを食べることもあります。こうした餌の中に抗酸化作用のある栄養素ビタミンCやビタミンE、ミネラル類、ポリフェノール類、カロテノイドなどが含まれているのです。

ふたつめに、ダチョウは体内に病原体が侵入してくると、猛スピードであらゆるパターンの抗体を大量に作り出すことがわかっています。ダチョウは子孫を守ろうとし、その抗体を卵に移します。そうすると、後孫にどんどん抗体が受け継がれていくわけです。本当にすごい能力であると感心すると同時に、ダチョウの深い親の愛を感じますね。

無限の可能性を秘めたダチョウ抗体

私たち人間や他の動物たちは、体内に異物が入るとそれを感知して抗体を作り、その異物と戦うしくみ、免疫力を持っています。その中でもダチョウは異物を感知する能力が非常に優れていて、他の動物では感知できないような異物もすぐに感知し、抗体を作ることができるそうです。他の動物では2週間後にやっと抗体ができ始めるのに対し、ダチョウは2週間後にはもうすでに抗体ができており、量も他の動物に比べ多く作れるという研究結果が出ています。

驚異的としか言いようがないダチョウの並外れた免疫力ですが、人間世界でも様々な分野で役立てられています。塚本氏は2006年に、ダチョウの体に病原体のウイルスや細菌、花粉などを投与し体内で抗体を生成させ、ダチョウが産んだ卵からその抗体を抽出する方法を確立させました。この抗体はダチョウ抗体と呼ばれており、ダチョウの卵の黄身の中に含まれています。現在、フィルター部分にダチョウ抗体を染み込ませ、新型コロナウイルスを96%以上、インフルエンザウイルスを99.9%不活性化できるマスクや、あらゆる所に吹き付けられる除菌・抗菌スプレー、アトピー肌の痒みの原因となる黄色ブドウ球菌を抑え、痒み・ひりつき・痛みを抑えられる化粧品など、幅広く商品が開発、販売されています。インフルエンザや新型コロナウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱などの危険な感染症や、花粉症の感染予防に世界中で役立てられています。この抗体は、他の動物と比較すると格段に素早く大量に作れ、また、あらゆる菌に応用が可能であるということです。今後は、抗体を直接人体に注射する予防接種や、癌の治療などへの活用も考えられており、ダチョウ抗体に対する期待度が高まっています。知れば知るほどに奥が深く、無限の可能性を秘めているダチョウの免疫力、本当にすごいですね。

ダチョウのイラスト

ダチョウが乗っても壊れない?世界一巨大で頑丈な卵

地球上の生物の卵の中で一番大きいのは、ダチョウの卵です。直径約15~18cmで重さは1.5~2㎏もあり、これは鶏の卵の約25倍の重さです。さすが世界一大きな鳥らしく、卵も大きいですね。また、ダチョウの卵は厚さが2~3mmと大変厚く(ニワトリの卵は厚さ約0.02mm)、固いのが特徴で、割るときはハンマーやトンカチが必要です。体重100kg以上のダチョウが乗っても割れません。この頑丈な殻が、子供を外敵や環境から守ってくれます。このようにダチョウの卵は、高い免疫力を持つだけではなく、外側も強いので貴重な子供を守るのに最強の卵といえます。 ところで、ダチョウの卵はこのように大変固く、人間でもハンマーやトンカチを使わないと割れないほどです。ダチョウの卵を狙うエジプトハゲワシは、鳥の中で道具を唯一使えるのです。驚くべきことに、エジプトハゲワシはくちばしで石をくわえ、その石を卵に投げ落として殻を割るのです。何回かそれを繰り返し、殻が割れたら中身を食べます。しかし、苦労して割った卵を他の動物に横取りされることもあります。また、サバンナに住むハイエナなどの猛獣も、ダチョウの卵を狙っています。しかし、どんなに強い猛獣であっても、ダチョウの卵の殻を割るのは簡単ではありません。何度も噛みつきながら挑戦し、やっと割ることができるほど固いのです。途中で諦めてしまうものもいるくらいです。大きさだけでなく、固さまで最上級のダチョウの卵は、まさに最強の卵と言えるでしょう。

エジプトハゲワシ
エジプトハゲワシ(引用:Kousik Nandy – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=559134による)

余談ですが、このような巨大なダチョウの卵を利用した様々な料理が作られています。卵料理の定番、目玉焼きや玉子焼き、ゆで卵は当然のこと、プリンにケーキ、バウムクーヘン、どら焼きなど、スイーツにも幅広く使われています。味は、黄身の部分が濃厚で、白身の部分は淡泊だということです。一度食べてみたいものですね。

ダチョウの卵と鶏の卵

今まで3回にわたり、知れば知るほど奥が深く、魅力的なダチョウの内容をお伝えして来ましたが、いかがだったでしょうか?私たちが抱いていたダチョウのイメージより、遥かにすごい機能を持ち合わせていて、びっくりするような内容もあったのではないでしょうか。ざんねんないきもの辞典の中では、ダチョウは脳みそが小さく記憶力も悪く、残念ように言われていますが、ダチョウにとっては脳みそが小さいのはマイナス面ではなく、むしろプラス面であり、頭が小さいことは、驚くほどの身体能力を発揮するために必要不可欠なものだったのです。私たち人間には到底考え及ばないような秘密が隠されていたのですね。

ダチョウの体には、私たち人間には計り知れない程のすばらしい免疫力の仕組みがありました。まずは、血液に抗酸化作用のある物質が多く含まれていること、そして体に入ってきた異物をすぐに感知し、抗体を作れること、さらに、親から子に免疫力が受け継がれることです。これらの仕組みは簡単に作り出せるものではありません。進化論では、進化の過程でいくつもの偶然が重なり、体や能力、生き方がたまたまそうなったと考えられています。しかし、どんな小さい器官でも無駄な動きは一切せず、体全体を動かすために重要な役割を担っており、その動きはお互いに密接に連動しています。あまりにも緻密に計算されたダチョウの体ですが、進化の過程で偶然が重なり機能を備えるようになる、果たしてそのようなことが可能なのでしょうか。それよりも、最初から設計されて作られたと考える方が自然な感じがします。私たちは今一度、このようなことについて考えてみる必要があるのではないでしょうか。

ダチョウ5羽

<引用資料>

● CCNET
 『【コラム】ダチョウの意外な生態』
  https://www.c-c-nt.com/news/【コラム】ダチョウの意外な生態/

● 朝日新聞SDGs ACTION!
 『【医療の部】感染症対策から薄毛予防まで 広がる可能性 ダチョウ抗体プロジェクト』
  https://www.asahi.com/sdgs/article/14858738

● 医療法人煌仁会 森川内科クリニック「メディカルサプリメント」
 『ダチョウ抗体が注目されています』
 https://www.morikawa-naika-clinic.com/supplement.html

● ニュースイッチ
 『コロナ感染予防にも期待される「ダチョウ」の恐るべき免疫パワー』
 https://newswitch.jp/p/27324

● CROSSEED
 『唯一無二のダチョウ抗体研究の世界的権威 塚本康浩教授に聞く』
 https://crosseed.co.jp/hpgen/HPB/entries/1.html

● CROSSEED
 『ダチョウ抗体のチカラ』
 https://crosseed.co.jp/hpgen/HPB/entries/2.html

● ウィキペディア
 『免疫応答』
 https://ja.wikipedia.org/wiki/免疫反応

● ウィキペディア
 『ダチョウ』
 https://ja.wikipedia.org/wiki/ダチョウ

● 健康長寿ネット「健康長寿とは ー 老化予防と生活習慣」
 『抗酸化による老化防止の効果』
 https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka-yobou/kousanka-zai.html

● Glico
 『抗酸化作用のある食べ物とは?アンチエイジング効果と正しい対策を徹底解説』
 https://www.glico.com/jp/health/contents/antioxidant/

● ひろちゃんのひとりごと 
 『ダチョウのおはなし』
 http://www.kinaga.co.jp/hiro/hiro-12.html

● 一般社団法人消防防災科学センター 「消防防災の科学 No.074(2003秋号)」
 『◇動物雑感(33)―ダチョウの子育て― 平岩 雅代』
 https://www.isad.or.jp/2019/07/25/no74/

● ナショナルジオグラフィック日本版「動物大図鑑」
 『ダチョウ』
 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428968/

● WAOサイエンスパーク「フロントランナー」
 『世界最大の鳥・ダチョウがつくり出した インフルエンザ・花粉症を撃退する“夢の抗体”』
 https://s-park.wao.ne.jp/archives/1383

● 幻冬舎plus「ダチョウはアホだが役に立つ」
 『新型コロナを蹴散らすダチョウパワー』
 https://www.gentosha.jp/article/17939/

● 神戸新聞社「M’s KOBE」
 『マスクから対テロ用ワクチンまで ダチョウの抗体「あらゆる菌に応用可能」』
 https://www.kobe-np.co.jp/news/monthly/news/nishi/201912/0013126207.shtml

● GetNavi web
 『量は鶏卵30個分!? ハンマーで割る!? 世界最大の卵・ダチョウの卵を食べてみた』
 https://getnavi.jp/cuisine/258120/

● ダチョウ王国
 『ダチョウの卵(王様の卵)』
 https://store.dacho.co.jp/shopdetail/000000000077/

● ねとらぼ
 『石を使ってダチョウの卵を割るハゲワシが賢すぎる』
 https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1608/21/news015.html

● 主夫の戯言
 『ヒナ誕生』
 https://ameblo.jp/datyou-namikiya/entry-10009221625.html