ラッコ③ 実は強い◯◯を持つラッコ

これまで、ラッコ特有の体の構造や食生活を紹介させていただきましたが、今回はそういった生態を維持するためにラッコが持つ、身体的特徴をみていきましょう。

ラッコも歯磨きをする⁉︎

ラッコは様々な海の幸を食しており、海に潜って貝やカニ、ウニなどを食べていることを前回紹介しました。石を使って割りもしますが、貝や甲殻類の硬い殻を噛み砕くことの出来る丈夫な歯を持っています。これはラッコの仲間であるカワウソにも共通するようです。

歯の1番外側の部分はエナメル質と呼ばれ、人間の場合でも身体組織の中で最も硬い部分です。どのくらい硬いかというと、水晶と同じくらいだと言われています。そのように元々、骨よりも硬いと言われる歯ですが、研究の結果、ラッコの歯のエナメル質は人間の約2.5倍の強度を持っているということが分かっています。エナメル質はタンパク質の多いゲル質の層からできており、ひび割れが増えるのを防ぐ役割をしています。ラッコの歯はこのエナメル質にある層が人間よりも多く、そのためより丈夫であり、硬いものも噛み砕くことが可能になっています。

歯の構造
【歯の構造(人間)】

ラッコは出生時には10本、成獣では人と同じ32本の歯が生えます。1日に沢山のエサを食べなければならないラッコにとって、歯はとても大事なものです。そこで、貝殻をちょうど良い大きさに割り、それで歯をキレイにしています。貝をただ中身を食べるだけでなく、その貝殻を使って歯磨きをしていたのです。ラッコがただ可愛らしいだけでなく、いかに賢いかが伺える行動だと思います。

海で暮らすラッコはどうやって水分補給している?

さて、ラッコはイタチやカワウソと同じ科に分類される哺乳類でありながら、ほとんど陸上に上がらず、一生を海の上で過ごします。

一般に海獣と呼ばれる、イルカやクジラなどの海で暮らす哺乳類も生きていくためには真水を接種する必要がありますが、彼らは基本的に海水を飲むことが出来ません。何故でしょうか?海水の塩分濃度は場所にもよりますが3.1〜3.8%です。一方、動物や私たちの体液の塩分濃度は約0.9%。人間もそうですが、海水を飲んでしまうと、余分な塩分を体外に排出するために腎臓に多大な負担がかかり、、もしその量が多ければ機能不全になってしまいます。加えて、体内の塩分を薄めるためにより多くの水分を必要とする、という悪循環が起きてしまいます。

ですからそういった海獣はどうやって海中で水分補給しているかというと、捕食するエサから得ているというように考えられています。エサとなる小魚などが体内に含有している水分であったり、またそれを消化する際に産まれる水分(代謝水)でまかなっているということです。 ではラッコも同じなのかというと。実はラッコは海洋哺乳類で唯一、海水を自主的に飲んで水分補給をすることが出来る種と言われています。それを可能にする秘密は腎臓にあります。ラッコはカワウソや他の海洋哺乳類と比較して体の割りに大きめの腎臓を持っており、海水と同程度にまで塩分濃度を高めた尿を排出することができるため、海水を飲んでも問題ないようになっています。

腎臓
腎臓の働きと再吸収
腎臓の働きと再吸収
By すじにくシチュー – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40150706

腎臓の働きには血液をきれいにすることや血圧の調節などいくつかあります。簡単に尿が造られるまでの流れを説明すると、腎動脈からの血液がボーマン嚢と呼ばれるところでこし出され、血球や蛋白以外のものが一度尿細管と呼ばれる管へ入っていきます。これが尿の元となる原尿です。ここから尿細管を通っていくうちに水分や栄養分は血中に再吸収され、不要な物質は逆に尿細管へ分泌されて、最終的に原尿の1%ほどまでに濃縮されます。

哺乳類の特徴として、ナトリウムだけでなく尿素によって体内の浸透圧を調整してることが挙げられます。尿素は水に溶けやすい性質があります。私たちの体液の浸透圧は285±5mOsm/kgに保たれていますが、この尿素により尿の浸透圧を1000mOsm/kg以上にまで高めることを可能にしています。これがラッコの場合は2500mOsm/kgまで濃縮することが出来ます。

もちろん、ラッコもエサを消化する際の代謝水を通じてや、海上の氷を舐めることを通して直接真水を摂ることも出来ますが、ラッコだけが塩分を濃縮して排出できる強靭な腎臓を持っているというのは非常に興味深いことです。

ラッコが海水を飲むことに耐えられる腎臓を持っていることをみれば、一見そういう生態に合わせて進化したのだと捉えられるかもしれません。しかし前回までで見てきたように、ラッコは一方では防寒のための皮下脂肪を持たず、毛皮と大量のエサによってエネルギーを産み出すという非効率な形態を取っています。これらが偶然或いは自然淘汰による産物と考えるには些か難しいのではないでしょうか? 次回、ラッコと他の生態系との関わりを最後に見ていきたいと思います。


<引用資料>

● らっこちゃんねる sea otter channel
  https://seaotter.jimdofree.com/

● OTONAMIE
 『【鳥羽ラッコストーリー#3】 令和元年のラッコ事情と、ラッコのロイズの思い出。』
  https://otonamie.jp/?p=64839

● Yahoo!Japanニュース
 『イルカはどうやって水分を摂っているのか』
  https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20170707-00073004

● 薬理学などなどなど。
 『なぜ人間は海の水が飲めないのか?』
  https://kunota506.com/?p=35541

● 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団
 『生物はどのようにして海から陸へ適応したか』
  https://www.saltscience.or.jp/symposium/1-imai.pdf

● 松本歯科大学リポジトリ
 『進化における両生類の陸生適応と腎臓の多様性』
  https://mdu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=558&file_id=22&file_no=1

● WIKIBOOKS
 『高等学校理科 生物基礎/内臓と体内環境』
  https://ja.m.wikibooks.org/wiki/高等学校理科_生物基礎/内臓と体内環境