ライオン① 百獣の王として親しまれてきたのに残念

ライオン(食肉目ネコ科ヒョウ属)は金色のたてがみを持ち、昔から百獣の王として人々に親しまれてきました。

ライオンの横顔

諸説ありますが、シンガポールのマーライオンや、エジプトのスフィンクスをはじめとする彫刻や絵画、さらには国旗や国章など、世界中で王や権力などの象徴となっており、日本では神社の狛犬、沖縄のシーサーのモデルになったともいわれています。

ギザの大スフィンクス
ギザの大スフィンクス(引用: Taken by the uploader, w:es:Usuario:Barcex – Taken by the uploader, w:es:Usuario:Barcex, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4483211による)

ライオンは進化してきた結果、「体力がなく弱い?」

さて、ベストセラーの「ざんねんないきもの事典」シリーズは今夏、映画にもなっています。この本は全ての生き物は偶然が積み重なって進化してきたことを前提にしています。

例えば、シリーズ第1弾『ざんねんないきもの事典』の20ページには

「大きな環境の変化によって、絶対絶命のピンチにおちいったとき・・・・・・ぐうぜんが味方につけば、進化でピンチを乗り越えられることもあります。」

となっています。

『続ざんねんないきもの事典』の14ページには、たまたま生き残るのが進化「自然の中で生きていたら『たまたまそうなった』だけ」となっています。本当にすべてのいきものはたまたま偶然が重なっただけで今の姿になったのでしょうか。

また、前述の『ざんねんないきもの事典』の17ページで、哺乳類の祖先を、ネズミのようなアデロバシレウスとしています。2億2500万年前に生息していたとされていて、推測される体長は10cm~15cm。現在のトガリネズミのようなものと思われます。

アデロバシレウス
アデロバシレウス(引用: Nobu Tamura (http://spinops.blogspot.com) – 投稿者自身による著作物, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19460517による)

これが、「あたまがよく、なかまと協力してかりをする」ことと、「えものをつかまえやすい、速い足」ゆえに進化して、「生き残り成功!(まわりの環境が多少変わっても、頭のよさと足の速さは役に立った。かりでえものをつかまえたり、敵から身を守ったりしながら数をふやし、今のライオンになった。)」としているのです。

また、『続ざんねんないきもの事典』で「ライオンには実は体力がない」、『さらにざんねんないきもの事典』では「ライオンは草に苦しめられる」となっています。

ライオンはネズミからたまたま偶然ライオンになったのでしょうか?実は体力がなくて暑いと弱そうになるざんねんな生き物なのでしょうか。

「百獣の王」と呼ばれ動物の世界のチャンピオンのようにみられてきたライオンが、「実は体力がなくて暑いと弱そうになる」というのは意外な驚きを与え、子どもたちを面白がらせているのかもしれません。しかしこれは、本当にそうなのでしょうか。

ライオンについての多くの事実を確認しながら確かめていきたいと思いますが、まず生態から話を始めます。

群れで行動しチームで狩り

ライオンは、ネコ科の動物の中でもっとも社会性がある種で、唯一「プライド」と呼ばれる群れを作って行動します。

群れは普通血縁関係のある4~12頭のメスの成獣とその子どもと、1~6頭のオスの成獣からなります。プライドの個体数はナミビアの半砂漠など食べ物が乏しい場所では4~5頭、得物が豊富な南アフリカのサバンナでは10頭以上になります。記録に残る最高は39頭です。 食べ物を探したり行動圏内を探索したりするときは、サブグループに分かれることが多いです。

群れにおけるオスの主な役割は、縄張りとメスを他のオスから守ることです。

ライオンは共同で狩りをする唯一のネコ科動物でもあります。大きなプライドの場合、得物を仕留めるのはたいてい、オスより速く、体が軽いメスです。数頭で獲物に忍びよるときは普通扇形に広がり、取り囲むようにして逃げ道の一端を断ちます。

草食動物のあとをついて回り、得物の背に飛び乗るか肢や尻につかみかかるかして、相手を地面に押さえつけ、喉や口に噛み付いて窒息させます。それは、得物が素早く息絶えることが目的なので、人間の殺人事件のように残虐なものではありません。出来るだけ苦しめずに息の根を止めようとする習性は天から与えられたもので、温情さえ感じます。

仕留めた獲物はプライドのメンバーで分け合って食べます。大人が食べる肉の量は動物園で飼育されているメスで1日当たり約4~5㎏、オスで約7㎏ですが、野生のライオンは毎日コンスタントに同量の肉を食べられるとは限りません。狩りに失敗すると何日も食べられないので、狩りに成功したときに沢山の肉を食いだめします。ライオンが1度に食べられる量は30㎏ほどだと言われています。

次回はオスの狩りの能力から始めます。


💡 ライオン豆知識・・・巨大なバーバリライオン

ライオンは絶滅種を含め9種類ありますが、その中で、とてつもなく巨大なライオンがバーバリライオンです。様々な動物が人間の都合で絶滅に瀕していますが、バーバリライオン(別名アトラスライオン)もその一つです。

バーバリライオン
バーバリライオン

体長はなんと現代で見られるライオンの1.5倍以上もあり、最大で全長4m以上あったそうです。通常のライオンはオス1.8m~2.5m、メスは1.4m~1.8m。体重はオス190kg前後、メス130kg前後です。

現在でもライオンは肉食獣の中で1番大きいのですが、バーバリライオンのオスは、体長3.7m~4mの白サイのオス位だったわけです。その大きさからも、ほぼ無敵であっただろうことが推測できます。

動物の大きさの比較
動物の大きさの比較(写真提供 / 動物図鑑 プライベート・ズー・ガーデン

ローマ帝国時代は、アフリカ北部に生息していたバーバリライオンの全盛期時代でもありました。ローマ帝国のカエサル(紀元前100~前44)は、驚いたことに、バーバリライオンを400頭、ポンペイウス(紀元前106~前48)は600頭を戦勝パレードに連れてきたそうです。また、ローマの競技場で剣闘士と戦わされたともいいます。

ローマ帝国が衰亡した後も、人間の活動域の拡大や、人間の娯楽のための狩猟でバーバリライオンは減り続け、モロッコで最後の野生個体が1922年に射殺され、絶滅したというのが通説になっていました。

ところがその後の調査で1996年に再発見され、2007年にも純血種でないバーバリライオンが発見されました。さらにその後、モロッコのムハンマド5世(1909~1961)の私的動物園で、かつて献上品として捕獲されたバーバリライオンの血統を受け継ぐライオン達が飼育され続けていたことがわかりました。2012年に首都ラバトに開園したラバト動物園で繁殖の取り組みがおこなわれています。

このライオンは純血種ではないとする説もありますが、AFP BBニュース(2012年10月10日16:32)でラバト動物園の飼育員の人が、「全くの純血種だ」と語っています。それが事実ならラバト動物園のバーバリライオンは純血種だということになります。ラバト動物園に行けばライオンの亜種の中で1番大きい純血種のバーバリライオンを見ることができるかもしれません。


<引用資料>

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「ライオン」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/ライオン

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「バーバリライオン」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/バーバリライオン

● AFPBB News「アトラスライオンを絶滅から救え、ラバト動物園の挑戦」
  https://www.afpbb.com/articles/-/2906676

● pepy「ライオンまとめ!大きさや特徴、生態は?」
  https://er-animal.jp/pepy/30061

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「アデロバシレウス」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/アデロバシレウス

● 生き物NAVI
  https://livingthing.biz/

● 絶滅動物図鑑「バーバリライオン」
  https://zetsumetsudoubutsu.com/barbarylion.php

● 「驚くべき世界の野生動物生態図鑑」日東書院本社(日本語版監修/小菅正夫監修、翻訳/黒輪 篤嗣)

● 「動物大百科1 食肉類」平凡社(編/D.W.マクドナルド、監修/今泉吉典)

● 「講談社の動く図鑑 move 動物」講談社(監修/山極寿一)