カンガルー③  カンガルーの誕生日は不明?

カンガルーはほかの哺乳類のように出産日を正確に把握することができません。それはカンガルーは妊娠してもお腹が大きくなることもなく、生まれても小さすぎて、出産に気づかないことが多いからです。

カンガルーは産後すぐに交尾ができますが、交尾して受精してもこの時にできた胚は「胚盤胞(はいばんほう)」といって細胞の段階で成長を止めることができます。「着床遅延(ちゃくしょうちえん)」という現象で、受精卵がすぐには子宮に着床しません。袋の中の子どもがおっぱいを吸う刺激にお母さんの体が反応して起こるもので、子どもが袋から出て乳離れをすると、休止していた胚盤胞は成長を再開し、新しい胎児が育つ仕組みになっています。そのため、交尾した日から出産予定日を割り出して、特定することもできません。

赤ちゃんの誕生日はてきとう

カンガルーの赤ちゃんは、うまれてから半年間は、母親の大きな袋の中にとじこもってすごします。この間、うんこやおしっこは袋の中で垂れながし状態。トイレのように水あらいはできませんので、半年もたてば、ものすごい量がたまるでしょう。
その理由は、いつうまれたのかよくわからないから。カンガルーの赤ちゃんの大きさは、わずか2cm。しかも、うまれるとすぐにお母さんのおなかを上り始め、わずか10秒ほどでおなかの袋の中にかくれてしまうのです。
その後、赤ちゃんは袋の中でお乳を飲んで育ち、約半年後に袋からひょっこり顔を出したら、その日が記念日になります。
「もっとざんねんないきもの事典(高橋書店)」P96

カンガルーの赤ちゃんの誕生日の決め方は、じつは決まっていません。生まれた施設ごとに独自ルールを作っているのです。「袋から顔を出した日」や「全身が袋から出た日」「着地日(袋から出て初めて地面に降りた日)」などそれぞれに違う基準を定めています。

オオカンガルーの赤ちゃん
オオカンガルーの赤ちゃん
(引用: 長崎バイオパーク
ワラビーの赤ちゃん
ワラビーの赤ちゃん
(引用: 甲府市遊亀公園附属動物園
アカカンガルーの赤ちゃん
アカカンガルーの赤ちゃん
(引用: アドベンチャーワールド

ですから、もし動物園の飼育員さんが気が付かなければ、誕生日が変わるという事もありえるのです。でもそのことが「残念」というほど、重要な意味があることかは疑問ですが。

首から血が? アカカンガルー

アカカンガルーのおとなのオスは、その名のとおり赤っぽい色をしています。いっぽうメスや子どもは青みがかった灰色の毛でおおわれていて、。全然赤くありません。
とはいうものの、じつは毛の色はみんな同じなのです。違う色に見えるのは、おとなのオスだけが、興奮すると胸やのどから赤い液を出し、体中の毛が染まるから。
赤い液が出る理由はよくわかっていませんが、あまりにも血にそっくりなことから、「首から血を流して死にそうなカンガルーがいます!」と、動物園で寝ているだけのカンガルーが通報されたこともあるのだとか。
「ますますざんねんないきもの事典(高橋書店)」P146
アカカンガルー(オス)のお昼寝
アカカンガルー(オス)のお昼寝
(引用: 鹿児島市平川動物公園

なんと首ににじんでいるのは、血液ではなく特殊な赤い分泌液で、決してケガをしているわけではありません。これはアカカンガルーの名前の由来ともされる生態で、アカカンガルーのオスは胸やのど、腋(わき)に赤みを帯びた分泌液を出す腺があって、性成熟に達する2歳前後になると、そこから赤い分泌液が出るようになるのです。

そのため、オスの体毛は普段も分泌液により赤く染まっているのですが、これはオス特有の現象らしく、メスは赤い分泌液を出さないので、毛の色はオトナになっても青灰色のままです。

アカカンガルー(オス)の赤い分泌液
アカカンガルー(オス)の赤い分泌液
(引用: 熊本市動植物園

この分泌液については、まだ解明されていなくて、どんな作用をするのかわかっていません。カバが赤い汗をかくことはよく知られていますが、じつは汗ではありません。カンガルーの場合も、暑い夏に多く分泌されますが、汗ではありません。

また、発情したり興奮したりというような際に多く出します。動物園では、発情したメスに分泌液をこすりつけている行動が観察されることがあるので、メスにアピールしたり、メスの交尾を促すなど、繁殖に関わる作用をしているとも考えられます。興奮したときによく出していることから、オスが存在を誇示するのに使われている可能性もあります。

カバの体液の研究者である京都薬科大学の橋本先生が、須坂市動物園に協力を依頼して、2007年からサンドバッグに「さらし」をまいてアカカンガルーの体液をサンプルとして随時採取してきました。カンガルーがサンドバッグをするときはある程度の興奮状態にあるため、そうした動作との関係性や、体液そのものの成分を調べるのが目的です。いずれその成果が発表されることでしょう。


<引用資料>

● 長崎バイオパーク公式ブログ
 『オオカンガルーの赤ちゃんが顔を出しました!』
  http://www.biopark.co.jp/ent/news/article/20190518_002064.html

● 甲府市遊亀公園 附属動物園 直営ページ
  https://m.facebook.com/kofuyukizoo/photos/a.549250528546786.1073741829.546173015521204/567073236764515/?type=1

● アドベンチャーワールド

 『アカカンガルーの赤ちゃんが誕生しました!お母さんのおなかの袋の中ですくすく成長中!』
  https://www.aws-s.com/topics/detail?id=top1580

● 知力空間
 『カンガルーの袋の仕組み|未熟児で生まれる子供のための優れた機能』
  https://cucanshozai.com/2019/09/kangaroos-pouch.html

● 鹿児島市平川動物園 Twitter
  https://twitter.com/hirakawazoo/status/1163029324535963649?s=20&t=kjHi-fPSGstrcxXNLJpT8w

● Hint-Pot
 『首から血が? アカカンガルーのお昼寝姿に衝撃! 意外と知らない動物の生態』
  https://hint-pot.jp/archives/13871/2/

● 熊本動植物園 Twitter
  https://mobile.twitter.com/kumamotocityzoo/status/1485458874228707328

● 須坂市動物園日記
 『サンプル採取しています。』
  https://blog.suzaka.jp/zoo.php/2007/12/22/p6151