ウシ① ウシのよだれは、垂れてるだけじゃない!

乳牛

私達は、日頃、野菜、魚、肉、果物などを多くの食物を食べて 肉体を維持しています。しかし、ウシはどうでしょうか?

ウシの主な食物は「草」です。

 人間は、草でなく、もっと栄養のあるものを、食べて体を作っています。

それなのに、カロリーの低い草を主に食べているウシの方が、体はとても大きいのは、大量に食べているからでしょうか?

主食の草だけであれほどの大きな体と、脂肪分を備えた肉ができ、雌ウシは牛乳を多く産生することができるのはなぜでしょうか?

それが「草」から始まったものとは思えない変化を見せてくれるウシの魅力について、これから見ていきたいと思います。

ウシが食べた草は、どうやって乳や肉に変わるのか?

牧草を食べるウシ

まず、ウシが飲み込んだ草の変化について、簡単に紹介していきます。

ウシの胃は4つに分かれていて、食べた草は、まず第一胃に運ばれます。第一胃の中には、星の数ほどいる微生物(細菌 バクテリア: 1ml 中に 100 億匹以上、原生動物 プロトゾア: 1ml 中に 50〜100 万匹)が草を食べて、微生物自体が増殖しながら、分解、発酵し、酸が作られます。

この酸は、酢酸、プロピオン酸や酪酸を主体とする、揮発性脂肪酸 (VFA)と言います。

この揮発性脂肪酸の大半が、ウシの体に必要な栄養として、第1胃の壁から吸収され、血液に変わり、各組織に送られていきます。(※1

各組織に送られた血液の中で、お腹の辺りにある太い血管から乳房に送られた血液が、ウシの母乳の元になっています。つまり、ウシのお乳は、母ウシの血液から作られるのです。(※2

ちなみに、人間の母乳も、お母さんの血液が元になっているようです。(※3

他にも様々な仕組みによって、ウシの体は作られているのですが、その過程で重要な役割を果たすのが、ウシの「よだれ」なのです。 ざんねんないきもの事典には、このように書かれています。

ウシの胃は4つ部屋に分かれています。
かれらはエサである草をのみこむと 胃の中で一度、発酵させてから口の中にはきもどし、よだれとまぜ合わせてから、再びのみこんで消化します。
この食事方法を「反すう」といいます。
植物は発酵すると酸性になるため、そのままでは内蔵をいためてしまいます。そのためウシは、アルカリ性のよだれで中和しながら、 食べているのです。
つまり、よだれで胃の調子を整えているのです。
かれらは毎日 2 リットルペットボトル 90 本分のよだれを出しながら、60kg もの大量の草を食べ、あの大きな体を維持しています。(ざんねんないきもの事典 p110  高橋書店)

ウシは大きな体であり、毎日大量の餌を食べるので、単純に考えて、 大量のよだれが出てもおかしくないとは思われますが、想像以上のよだれの量です。

ちなみに、人間のよだれは、1日1.5リットル。

ウシのよだれの量は、1 日180リットル。

日本のお風呂が約200リットルなので、毎日お風呂一杯分のよだれが出ると考えると、人間と比べたら、ざんねんに見えるのかもしれませんね。(※4

他にも、ざんねんないきもの事典には、「植物は発酵すると酸性になり、内蔵 を痛めるので、アルカリ性のよだれで、中和している」と書かれています。

しかし、ウシの「よだれ」について、もう少し掘り下げて見ていくと、 今までの、ウシの「よだれ」に対するイメージを超える、もっと興味深い内容があるのが見えてきます。

先ほど、人間のよだれとウシのよだれを比較しましたが、人間は、よだれをそんなに出していたのだろうか?と思いました。
よだれも唾液も、同じ意味だろうと思いがちでしたが、よだれについて調べてみると、よだれの概念は、口外に垂れ流された「唾液」が、「よだれ」と呼ばれています。(※5

つまり、先ほどのご紹介した人間のよだれも、ウシのよだれも同様で、全てを口の外に垂れ流しているわけではないので、大半は唾液であると言えます。
この点だけを見ても、ウシのよだれは、ただ垂れ流されているざんねんなもの、とは言えないのではないでしょうか?

以上のことを踏まえて、ここからは、ウシの「よだれ」を「唾液」と表記して、ご紹介していきたいと思います。

唾液が取り持つ、微生物とウシの驚きの共存!

唾液を通して、胃の中を中和してもらって助かっているのは、実はウシだけでなく、ウシの第一胃に存在する微生物も同様なのです。

人間の場合、食物の栄養素を体内に取り込むには、栄養素を体の細胞組織レベルまで小さいものにする必要があり、消化液の中の「消化酵素」が作用し栄養素を分解します。(※6

しかし、ウシの第一胃に消化酵素はありません。なぜなら、ウシの第 一胃の中の微生物は、消化酵素があると死滅してしまうからです。

ウシの第一胃自体は、消化するという機能を持たずに、第一胃の中の微生物が、草などの食物の分解、発酵をして、ウシの栄養素である揮発性脂肪酸を作っています。 かわりに微生物たちはウシから快適な温度の環境と、餌を常にもらいながら、さらに増殖していけるのです。

微生物が増殖すれば、勿論揮発性脂肪酸の量も増えます。より栄養が増えるので、ウシにとっては有難いことですが、揮発性脂肪酸が増えすぎると、微生物たちは生きていけなくなります。微生物が生きられないと、ウシの胃では草の分解や発酵ができなくなり、ウシは病気になってしまいます。

そこで、第一胃で微生物が作り出した、揮発性脂肪酸の量を安定させるためにも、中和してくれるアルカリ性の唾液の存在が欠かせないのです。 このようにウシと微生物との共存において、お互いの体を保つのに、 重要な存在が、ウシの唾液のなのです。(※7


<引用資料>

※1 なきごえ Vol.45- 01 2009.01 Winter「牛の栄養と健康」
   『牛の栄養学的特性』
   http://nakigoe.jp/nakigoe/2009/01/report01.html

※2 公益社団法人 栃木県獣医師会
   『牛のからだについて ~人体との比較~』
   https://www.tochigi-vet.or.jp/other/sangyou/sangyou_08.html

※3 ピジョンインフォ「Doctors Me 編集部コラム」
   『母乳の出る仕組みや、日常のケア』
   https://pigeon.info/column/drme/029.html

※4 お口大全(お口の機能と病気と口腔ケア)
   『唾液について』
   https://aofc-ydc.com/or-fnc-base-saliva1.html

   FUGANE BLOG
   『牛の口から出ている「よだれ」の知られざる秘密』
   https://fugane.jp/veterinarian-blog/cows-drool/

※5 コトバンク「よだれ」
   https://kotobank.jp/word/%E3%82%88%E3%81%A0%E3%82%8C-1433212

※6 胃腸.jp「消化器とは?」
   https://www.ichou.jp/digestive_tract

※7 牛の博物館「ウシの生物学」
   『ウシの胃』
   https://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ushi/02_tenzi/01-13.html