ダチョウ① 望遠鏡のような眼を持つダチョウ

鳥類の中で一番体が大きいとされているダチョウ。「背が高い、飛べない、走るのがダントツに速い」ダチョウといえば、このようなイメージを持っておられる方が多いのではないでしょうか。

サバンナを歩くダチョウ

「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」には、体が大きいという内容に加え、「脳もさぞ大きそうなものですが、たった40gしかありません。つまり目玉以下です。頭のよさは脳の大きさだけでは決まりませんが、実際ダチョウはかなり記憶力が悪いそうです。」と記述されています。確かにダチョウの脳は約40g、眼球は約60gで、脳よりも眼球の方が大きいことで知られています。(図1)
ダチョウは大きい体のわりには頭部が小さいという印象ですが、脳より大きい眼球を持っているのはなぜでしょうか。

ダチョウの眼球と脳の大きさ比較
図1 ダチョウの眼球と脳の大きさの比較
ダチョウの顔

ここまで見えちゃうダチョウの眼

ダチョウの眼球はなんと約5cmもあり、陸生生物の中で最大級の大きさを誇っています。眼球が大きいということは、即ちレンズの焦点距離が長いということなので、ダチョウの眼は遠くのものがよく見えるのです。最大級の大きさの眼球を持ったダチョウは、最強の視力を持っているということになります。

世界一視力がいいダチョウは、なんと20~25もの視力を誇り、これはマンションの1階を3mとしたときに、マンションの13階から地上のアリの動きが見えるほどのレベルだそうです。そしてダチョウは、10km先の物体も認識できるといわれていますが、同じようにマンションに例えると、3333階から地上の物体を認識できるほどのすごさです。私たち人間の視力はどうでしょうか。人間の中で特に眼がいいと言われている、アフリカのタンザニアに住むハヅァ族(写真1)の視力は、11だそうです。これはマンションの18階から地上を見下ろしたときに、地上に置いてあるパスタの本数が数えられるくらいものすごい視力です。しかしダチョウの視力とは比べ物になりません。ダチョウの驚くべきこの視力の秘密は一体どこにあるのでしょうか。

ハヅァ族
写真1 ハヅァ族(Hadzabe1.jpg: IdobiHadzabe2.jpg: IdobiHadzabe4.jpg: IdobiHadazbe_returning_from_hunt.jpg: Andreas Ledererderivative work: Joey Roe – Hadzabe1.jpgHadzabe2.jpgHadzabe4.jpgHadazbe_returning_from_hunt.jpg, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15068497による)
ダチョウの眼差し

ダチョウの眼の構造は基本的に私たち人間と同じです。(図2、図3)
ダチョウの眼のすごいところは、視細胞の数にあります。人間の視細胞の数は約20万個ですが、ダチョウをはじめ鳥類の視細胞は約150万個もあり、人間の約7~8倍にあたります。このたくさんの視細胞が数々の優れた眼の機能を生み出しています。それらの機能を一つ一つ見ていきましょう。

まずは、水晶体(レンズ)についてです。鳥類の水晶体は哺乳類より柔らかく、近場に焦点を合わせる時に、水晶体の中央が凸状に押し出され変形します。(図3、図4)
ちょうどカメラのズームレンズのような機能です。このように変形する水晶体により、至近距離にも焦点を合わせ物を見ることができるというわけです。最短でなんと1cmの距離でも焦点を合わせることができます。私たち人間の眼は、一番近い距離でも大体7~10cmくらいのところで焦点を合わせていることと比較すると、ダチョウの眼がいかにすごいかがわかります。

次に、鳥類は左右の目にそれぞれ中心窩(ちゅうしんか)を2個ずつ持っています。中心窩とは、網膜の黄斑部の中心にあり、物を見る時にピントを合わせるための重要な部分です。人間には1個ずつしかなく、一点を集中して見るとその周辺が見えにくくなってしまいます。しかし中心窩を2個ずつ持っている鳥類は、その周辺のピントも合わせることができます。さらに、鳥類の中心窩の細胞の数はなんと人間の6倍もあり、人間よりもはっきりくっきりとした視野が広がっていると言われています。

人の眼球の水平断面図
図2 ヒトの眼球の水平断面図
鳥類の眼球の水平断面図(タカ)
図3 鳥類の眼球の水平断面図:タカ
(引用: MARKの部屋「4.動物の眼・視覚」
鳥類の眼球の水晶体の圧縮変形
図4 鳥類の眼球の水晶体の圧縮変形
(引用: MARKの部屋「4.動物の眼・視覚」

さらに、鳥は赤、青、緑の他に紫外線も色として見ることができるため、私たち人間よりもカラフルな世界を見ていると言われています。また、人間の視野角は約200度、鳥は約330度だと言われており、人間よりも鳥の方がはるかに視野が広いことがわかっています。

また、ダチョウは眼球を保護するために、長いまつ毛と第3のまぶたと言われる瞬膜を持っています。(写真2)
瞬膜は、瞬きをする時に瞬間的に出てくる膜で、眼球を保護し保湿する役割を果たしながら、ダチョウの大切な眼をしっかりと守っています。これだけでも、ダチョウにとっていかに眼が重要であるか知ることができます。

ダチョウの瞬膜
写真2 ダチョウの瞬膜(Attribution-NonCommercial-ShareAlike (CC BY-NC-SA 2.0))

ここまでダチョウの眼の秘密について見てきました。ダチョウがなぜ、脳よりも大きな眼球が備わっているのかがお分かりいただけたのではないでしょうか。果てしなく広がるサバンナで暮らす飛べないダチョウにとって、天敵から身を守るためには、遠くまで見わたすことができる視力が必須だと言えます。このためダチョウには大きな眼球が必要なのです。望遠鏡のような眼で敵を察知しながらたくましく生きているダチョウ、とってもかっこいいですね。

次回は、俊足ランナーダチョウの足に、どんな秘密があるのか見ていきたいと思います。

ダチョウの群れ

<引用資料>

● MARKの部屋
 『4.動物の眼・視覚』
  http://www2.tbb.t-com.ne.jp/mark/torime.html

● 世界雑学ノート
 『ダチョウは脳みそは小さくて知能はそこまで高くない』
  https://world-note.com/ostrich-brain-intelligence/

● メガネスーパー「アイケア研究所リサーチ」
  『【夢のメガネ】「遠くがミエルメガネ」視力11.0では、どこまで見えるのか?』
  https://www.meganesuper.co.jp/research/mieru-megane/

● ようこそ今井眼科医院へ
 『鳥は鳥目か』
  http://www5b.biglobe.ne.jp/~i-ganka/2014-8.html

● CiNii
  『鳥類の視覚受容機構』
  https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204686571904

● netgeek
 『鳥が見ている世界は人間よりもカラフル』
  http://netgeek.biz/archives/148729

● 中村眼科「ブログ」
 『新年のご挨拶』
  http://www.nakamura-ganka.com/kisetsunowadai/7547

● 野毛山動物園「ブログ」
 『世界ダチョウの日①』
  https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/nogeyama/details/post-1248.php

● カラパイア 不思議と謎の大冒険
 『動物の目を守る第三の瞼、「瞬膜」を捕えた写真』
  https://karapaia.com/archives/52167969.html

● 白鳥と昆虫と花などの自然観察 | 野外観察を通じて、くつろぎとやすらぎを提供する自然観察のサイト
 『鳥の視力は何故良いの? | 鳥の眼の構造』
  https://naturally-land.com/2022/05/11/bird-eyes/

● 大浦アイクリニック
 『網膜・黄斑について』
  https://www.oura-eyeclinic.com/retina/link/

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「中心窩」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/中心窩