アブラムシ① アブラムシは生まれた時から妊娠している!!
バラのつぼみや茎にびっしりと群がっている小さな虫を見たことがあると思います。その虫が、ざんねんないきもの事典に書いてあるイバラヒゲナガアブラムシというアブラムシの仲間です。
「口針」とよばれる針のような口で植物の汁を吸う、体長1~2mmくらいの昆虫で、つまむとすぐつぶれて油っぽい汁が出るのでアブラムシの名があります。
世界には5000種、日本には600種以上のアブラムシがいますが、種類によって汁を吸う植物がきまっているので、多くのアブラムシの名前には植物名がついています。
アブラムシはゴキブリの別名として使われるので(それを知っているあなたは結構なお年?!)、植物にいるアブラムシのことをアリマキ(蟻牧)ともよびます。牧という字は家畜を牧場で飼うという意味で、アリは甘露をくれるアブラムシを家畜のように大切にして、敵から守っています。それで、アブラムシがたくさんいる所をアブラムシ牧場といいます。
驚くべきアブラムシの繫殖スピード
1ぴきでは生きられないアブラムシが、今まで生き残ることができた理由は、この驚くべき繁殖スピードにあります。
アブラムシのメスは「単為生殖(たんいせいしょく)」という、交尾や受精をしない方法でクローン繁殖して、親と同じ遺伝子をもった子虫をうむので、オスと出会う時間や労力を使わなくてすむ分、繫殖スピードがあがります。
そのうえ、「ざんねんないきもの事典」にあるように、メスのおなかに子どもができた時、その子どもの中にも、その子どもの子どもの細胞が誕生していて、お母さんの中に孫まで身ごもっている状態です。ですから、ふつうに交尾して子をうむ生物にはありえないスピードで、繫殖することができるのです。
母親アブラムシは、1日に5~10ぴきの子虫を産みます。養分と気候にめぐまれれば、1日に15ひき以上産むことさえあります。しかも、産まれた子どもは全部メスです。
メスの子虫たちは、4~7日で成虫の母親になり、交尾をせずにつぎの世代の子虫を胎生(卵でなく親と同じ形で産むこと)で産みはじめます。
母親の寿命が2~3週間だとしても、ある計算によると1ぴきのメスがいれば、爆発的繫殖力で、1年では子孫の重量が人間1万人の体重と同じくらいになるそうです。もちろん、それだけのアブラムシを養える植物の養分が保証された理想的条件下での話ですが。
アブラムシの警報フェロモン
外殻が柔らかく武器も持たないアブラムシは、仲間が発する警報フェロモンの合図を感じて逃げることでしか身を守れないので、合図がすぐわかるように体をくっつけて集団で暮らします。
数が多くてギッシリつまっているときは、仲間がつかまっても、ほかのものはあまり身動きしません。すぐ隣にいるものたちがパラパラと下に落ちるぐらいのことです。フェロモンで危険を感じて落ちるだけで、走って逃げることもしません。
ですから、ざんねんどころか、この生まれた時から妊娠している繫殖スピードのおかげで、アブラムシは生き残れているのです。 下に落ちたアブラムシたちは、ゆっくり歩いてまた木にとりつき、そこで汁をすいはじめます。
すごい!!アブラムシの食物連鎖
自然界全体の中でアブラムシをみると、アブラムシ自身は多くの昆虫のエサになり、排せつ物は多種類の昆虫の栄養源になっています。つまり、アブラムシは一方的に食べられるだけなのですが、食物連鎖にとっては重要な存在なのです。
故山下善平・三重大学名誉教授は「アブラムシは陸上のプランクトンだ」と表現しましたが、多くの生物を底辺でささえている昆虫こそアブラムシなのです。そう考えると、「アブラムシは全て害虫」と決めつけてしまってはかわいそうかもしれません。
クサカゲロウはアブラムシの天敵です。成虫はアブラムシを食べ、アブラムシのいる所に「ウドンゲの花」とよばれる卵を産みつけます。卵からかえった幼虫たちは、するどいキバでアブラムシを捕らえて食べます。
アブラムシの天敵として、もっとも有名なのはテントウムシです。ナナホシテントウやナミテントウなどの肉食のテントウムシは、成虫も幼虫もアブラムシしか食べません。
テントウムシの成虫はアブラムシをエサにするだけでなく、アブラムシのいる植物に卵を産みつけます。ときには、いちどに50個ほどの卵を、そっと葉の裏に産みつけていきます。
一週間ほどで生まれる幼虫は、成虫になるまでに600ぴき近くのアブラムシを食べるので、たくさんの幼虫がいれば、小さなアブラムシ牧場なら、すぐに全滅してしまいます。
テントウムシだけでなく、ササグモ、アブラバチ、ジョウカイボンもアブラムシの天敵です。
ヒラタアブの成虫は、花の上で蜜や花粉をなめますが、幼虫はアブラムシを襲って、汁を吸います。それで、卵を産むときだけはアブラムシ牧場にやってきて、アブラムシのそばに白い卵を産みつけます。
昆虫たちを生かすアブラムシ
食物連鎖とは、アブラムシをテントウムシが食べ、そのテントウムシをトンボが食べるといった、大きなものが小さなものを食べる自然界のつながりのことです。
アブラムシをエサにしている昆虫たちは、数えきれないくらいいます。つまりアブラムシは、自分がエサになることで食物連鎖をささえている、なくてはならない存在といえます。
身を守る力を持たないし、天敵が多くて食べられてばかりなのに、なぜかアブラムシは全滅しないのです。アブラムシが全滅したら、食物連鎖が壊れ、ほかの生物たちも生きていけなくなってしまいます。だから自然は巧妙にアブラムシを生かし、バランスを保っているのです。
それこそが、アブラムシの驚くべき繫殖スピードの理由です。母虫のおなかに孫虫まで持った子虫がいるなんて、ほかの生物ではありえない繁殖力です。だからこそ、どれだけ多くの昆虫のエサになっても、アブラムシは全滅しないのです!!
ざんねんどころか、この繫殖スピードで1億年以上も虫たちの生態系を守っているアブラムシってすごいと思いませんか?!
アブラムシが偶然存在して、偶然圧倒的繫殖力を持つようになったので、自然界の生き物たちが生存していくための食物連鎖の仕組みが偶然できあがったのでしょうか?
食物連鎖のプログラムが先にできていて、それが機能するために、ありえない能力をたくさん持つアブラムシが生まれてきた、と考えたほうが、この自然界の緻密な複雑さが、感動的に納得できるのではないでしょうか!!
<引用資料>
● 自然の観察事典⑭「アリマキ観察事典」偕成社(文/小田英智 写真/小川宏)
● 「ファーブル昆虫記 3 セミの歌のひみつ」集英社(著者/ジャン = アンリ・ファーブル 訳・解説/奥本大三郎)
● FOOCOM.NET – 科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体
『アブラムシ再考 生物の多様性支える益虫?』
https://foocom.net/column/pest/8600/
ディスカッション
コメント一覧
油虫は、地球🌏を支える縁の下の力持ち💪🏻だったんですね。自然を見ながら、どんなに小さな存在でも価値があり貴いことを感じて感動〜💕力をもらいました🙆♀️
小さくても、社会を支えられたら…そんな価値ある生き方がいいね👍