アブラムシ② アブラムシはどんな群れも始めは卵から

アブラムシは卵でしか冬を越せません。それで、秋になるとオスや卵を産むメスが出現します。それまでは、母親が交尾せずクローン繁殖して娘たちを産む、メスだけの世界が約10世代も続き子孫をふやします。

一年の活動のおわりが近づく秋になると、気温の低下や昼間の日射時間が短くなったことが刺激になって、メスだけ産んでいたアブラムシたちが、オスや卵を産むメスになる子虫を産み始めます。

アブラムシの産卵と卵の冬越し

秋に生まれたオスの子虫は、植物の養液をすって成長します。そして、最後の脱皮がおわると、羽を持ったオスの成虫になって枝から枝へ飛び回り、交尾相手のメスをさがします。

卵を産むメスは、成虫になっても羽をもちません。かわりに、たくさんの卵をおなかにかかえています。また、交尾しないメスと違い、交尾のためオスを誘わなければならないので、性フェロモンを分泌するようになります。

こうしたメスをみつけると、オスはメスの背中にとびのって、交尾をするのです。

アブラムシの生活環
アブラムシの生活環(引用: ピクシブ百科事典「アブラムシ」, https://dic.pixiv.net/a/アブラムシ)より

交尾を終えたメスたちは、産卵のため春の寄生植物に戻ってきます。アブラムシの多くは、越冬卵を産むための植物と単為生殖するための植物を分けていて、一般的に冬の寄生植物は木で、夏の寄生植物は草です。

産卵する木に集まったメスたちは、樹皮に卵を産みつけはじめます。卵の色はアブラムシの種類によって、さまざまですが、どの卵も時間がたつと黒色になります。外気にさらされた卵を紫外線などの有害な光からまもるためです。

そして木枯らしが吹くころには、アブラムシ牧場はなくなり、びっしり産みつけられた卵だけが、ひっそりと春をまつのです。

冬にいったん死に絶えたアブラムシは、春先に卵から幼虫がふ化します。私たちがアブラムシに気づくのは、大きな群れ(コロニー)をつくってからですが、どんなアブラムシもいちばんはじめは、卵からはじまります。 卵からかえった幼虫は、小さいだけで親と同じ体です。でも、卵から産まれるのは全部メスです。そして4回脱皮して4~7日で成虫になると、交尾もせず胎生で子どもをうみはじめます。 この最初の母親を幹母といい、全部羽のない無翅型(むしがた)のメスです。飛ぶためのエネルギーや養分を、早くたくさんの子どもを生むために使うからです。

幹母
幹母(引用: 自然の観察事典⑭「アリマキ観察事典」偕成社 P11)

秋しか生まれないオスは残念!?

オスの出番は、秋だけ。卵の状態にならないと冬の寒さをこせないため、オスとメスで交尾をして卵ををうむのです。
あまり出番がないせいか、メスにくらべてオスの数はきょくたんに少ないそうです。
「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」P123

アブラムシは「単為生殖」をする生物ですから、基本的にメスしか存在しません。これは、前回書いたように、ほかの生物のエサになり続け、食物連鎖をささえているアブラムシが、絶滅しない唯一の生存方法として、クローン繫殖するためです。

そのアブラムシが年に一度だけ増殖システムを変えて、遺伝子スイッチを切り替え、オスを産むのです。

アブラムシの生活環の一例
アブラムシの生活環の一例(引用: Yahoo!ニュース「メスだけでゴキブリが増えるのはなぜ? 昆虫たちの仁義なき繁殖戦略」, https://news.yahoo.co.jp/articles/7b64b2464d1a9b2003cb8b98d579ee3c98ca86c0

オスが生まれた理由はただひとつ。冬までにできるだけ多くのメスと交尾をするためです。オスは休むことなく交尾を続け、交尾したメスはクローンではなく卵を産みます。卵の形でしか冬を越せないのと、オスによって遺伝子の多様性を保つためです。

基本的にメスしか存在しないのですから、年に一度しか生まれないオスが、きょくたんに少ないのは当然です。しかし、オスによる「有性生殖」で産まれた卵が、冬に死滅した親世代に代わって、種の存続を守っているのです。

この2億年も前から、変わっていないアブラムシの生態があるからこそ、自然界全体の食物連鎖が維持され、生命が続いているといえます。つまり、オスが生まれることで、自然界が守られていると言ってもいいでしょう。

それは、ざんねんなことではなく、アブラムシだけが持っているユニークな特性であり、アブラムシが見せてくれる自然の絶妙さには感動すら感じてしまいます。

幹母だけが虫こぶを作れる!!

有性生殖で卵から生まれた個体を「幹母(かんぼ)」といいますが、この幹母だけが虫こぶを作る能力を持っています。

虫こぶというのは、植物に寄生した昆虫が、植物をさまざまに変形させて、巣として利用しているものです。

ケヤキフシアブラムシの虫こぶ
ケヤキの若葉につくられるケヤキフシアブラムシの虫こぶ(ケヤキノミミフシ)
ケヤキの若い虫こぶ
ケヤキの若い虫こぶ
ケヤキの若い虫こぶ(断面)
虫こぶの中で子虫を生む
ケヤキフシアブラムシの虫こぶ(断面)
成長して赤く色づいた虫こぶの断面図
綿毛のようなワックスの中で子虫たちがそだっている
虫こぶのでき方
虫こぶのでき方

引用: 自然の観察事典⑭「アリマキ観察事典」偕成社 P24~25

春に生まれた幹母は、虫こぶ作りにとりかかります。アブラムシが、針のような口でチクチクと芽や葉の表面などをさすと、その部分が活発に細胞分裂を始めて、虫こぶになります。アブラムシの唾液の成分に、植物の形状を変えてしまう化学物質が含まれていると考えられます。

大きくふくらむ虫こぶの中に、最初は幹母一匹だけが住んで、単為生殖でどんどん子虫を産みます。子虫たちも、虫こぶの壁面から樹液をすって大きく成長し、多ければ数百匹のコロニーになります。

ケヤキの虫こぶは、夏がくるころ赤く色づき始めます。やがて成長が止まり、こぶが枯れ始めてひびわれると、中から羽を持った成虫(有翅虫・ゆうしちゅう)になったアブラムシたちが、夏の寄生植物をもとめて飛び立ちます。別の植物でコロニーをつくるためですが、新しい場所では虫こぶは作らず増殖していきます。

モンゼンイスアブラムシの虫こぶ
イスノキにできたモンゼンイスアブラムシの虫こぶ
(引用: 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所「モンゼンイスアブラムシ」, http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/kysmr/data/mr0072s1.htm
モンゼンイスアブラムシの虫こぶから飛び立つ成虫
モンゼンイスアブラムシの虫こぶから飛び立つ成虫
(引用: 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所「モンゼンイスアブラムシ」, http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/kysmr/data/mr0072s1.htm
ヤノイスアブラムシの虫こぶ
イスノキにできたヤノイスアブラムシの虫こぶ(イスノキハタマフシ)
(引用: 樹木図鑑 虫こぶ「イスノキ」, http://www.jugemusha.com/jumoku-zz-isunoki.htm

世界には約5000種のアブラムシがいますが、虫こぶを作るのは、そのうちの10%程度です。

アブラムシの中には社会性を持つものもいて、それらの多くは、虫こぶを作ることが知られています。社会性を持つアブラムシは80種くらいですが、そこに外敵から仲間を守るためだけに存在する兵隊アブラムシがいます。

次回は、わが身を捨てて仲間を守り、家(虫こぶ)を修復する「兵隊アブラムシ」の感動的お話です。


<引用資料>

● 自然の観察事典⑭「アリマキ観察事典」偕成社(文/小田英智 写真/小川宏)

● 産総研
 『思わず感動!わが身を捨てて「家」を修復する「兵隊アブラムシ」』
  https://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/bluebacks/no29/

● ピクシブ百科事典
 『アブラムシ』
  https://dic.pixiv.net/a/アブラムシ

● Yahoo!ニュース
 『メスだけでゴキブリが増えるのはなぜ? 昆虫たちの仁義なき繁殖戦略』
  https://news.yahoo.co.jp/articles/7b64b2464d1a9b2003cb8b98d579ee3c98ca86c0

● 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所
 『モンゼンイスアブラムシ』
  http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/kysmr/data/mr0072s1.htm

● 樹木図鑑 虫こぶ
 『イスノキ』
  http://www.jugemusha.com/jumoku-zz-isunoki.htm