オランウータン① 最大の樹上生活哺乳類

オランウータンの名前は、マレー語で「orang=人」「hutan=森」に由来しています。もともと島の奥地の原住民のことでしたが、5歳児くらいの知能を持つオランウータンに使われるようになりました。

オランウータンは木の上で生活している哺乳類の中では、もっとも体が大きいと言われています。特にオスはメスの体格の2倍もあり、野生だと80㎏前後にもなります。

東南アジアにしかいない!!

オランウータンの先祖は1300万年前まで確定されていますが、その後の寒冷化で住処(すみか)となる森がなくなったのと、人類の狩猟の対象になったことで、大陸では絶滅してしまいました。そのため現在では、東南アジアのスマトラ島とボルネオ島にしか住んでいないので、スマトラオランウータンとボルネオオランウータンと呼ばれています。

オランウータンの親子
オランウータンの親子

2017年に、それまでスマトラオランウータンと考えられていた個体の群れが、別な新種とわかりタパヌリオランウータンと名付けられて、全部で3種類になりました。

このそれぞれは、住む場所が違うだけでなく、遺伝的・形態的・生態的に異なる点が多く、別種と考えられています。

タパヌリオランウータンは存在自体が最も古く、スマトラオランウータンは300万年前にタパヌリオランウータンから分かれたと言われています。

スマトラオランウータンは顔は面長、体はほっそりしています。ボルネオオランウータンは丸い顔で、体毛は短く、でっぷりした体形です。

ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータン(引用: ボルネオオランウータン web猿図鑑 – 猿.com

オスのフランジの不思議

オランウータンの オスの顔には、フランジというお面のようなひだがあります。フランジのあるオスは強そうに見えますが、どのオスにもあるわけではありません。若いオスがけんかに勝つと、男性ホルモンが分泌(ぶんぴ)され、どんどんフランジが発達します。つまりけんかに勝った印です。
1年くらいしてフランジが発達すると、強いもの同士は相手をさけて暮らすため、けんかはまずなくなります。しかし、あまり強くないのに偶然勝ってしまったオスは悲惨で、乱暴なオスに出会わないように、いつもドキドキしながら生きているのです。
「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」P37

「フランジ(Flange)」は英語で「出っ張った部分」などの意味があり、顔の両側にあるふくらんだ大きな頬のひだのことをいいます。

フランジのあるのが[フランジ・オス]出ていないのが[アンフランジ・オス]と呼ばれます。アンフランジ・オスは体格もメスと同じ位で、メスと見分けがつけにくいくらいです。

たとえば、ある地域の中で優位にいたフランジ・オスが死んだり、遠くに移動したりします。すると、その地域で、次に優位なのは自分だと自覚しているオス一頭だけがフランジを発達させるのです。その時、男性ホルモンの一種のテストステロンや成長ホルモンの数値が急上昇することがわかっています。

では、どのようにしてその自覚を持つのでしょうか?オランウータンは群れない動物ですが、たまたま別のオスに出会ってしまう中で、自分の実力を知り、「自分が地域で一番強い」と判断していくのです。

不思議なことに「自分は強い」と思っているオスしかフランジは発達しません。また、フランジを持つオスが近くにいると、他のオスはフランジができません。自分が劣っていると自覚しているオスは、フランジの発達を抑制し続けます。その場合一生アンフランジのままでいると考えられます。

一度大きくなったフランジは、老化によってしぼむことや、劣位になって若干小さくなることはありますが、完全なアンフランジ状態に戻ることはありません。

1頭だけで飼育されている動物園では、皆フランジを発現させますが、2頭のオトナオスを同じケージで飼育している場合は、若い方のフランジの発現が抑制されることがあります。

別の例では、1頭だけの動物園で、担当の飼育員が変わったらフランジが成長したそうです。前任者がガッチリした体つきで高圧的タイプだったのに対し、新しく担当になった人は、細身で優しいタイプだったからではないかと思われます。

ボルネオオランウータンのフランジは大きく張り出していて、顏型も体格も全体的に丸みがありますが、スマトラオランウータンのフランジは発達の程度が弱く、頬があまり張り出さず長細い顏型をしています。

オランウータンには縄張りがないので、同じ地域、同じ木を複数の個体が同時に利用するし、ケンカもほとんど起こりません。ただフランジのあるオス同士だけは敵対的で、時には殺し合いになるような激しい闘争が起きることがあります。木を揺らし枝を折って威嚇(いかく)したり、物を投げたり、噛みついたりするので、ほとんどのフランジのオスが顔や目の周り、指に傷があります。普段は互いに相手を避けて生活しています。

しかしフランジのオスは、アンフランジに対してはとても寛容で、一緒に同じ木で採食することもあります。

また、アンフランジのオス同士には敵対関係はほとんどみられませんが、頻繁(ひんぱん)に遭遇したり、一緒に移動することもあまりありません。

フランジ・オスには大きな喉袋(のどぶくろ)があり、ロングコールという叫び声を出して、他のオスに自分の存在を誇示(こじ)したり、メスを呼んだ りします。その声は800メートル離れた場所でも聞こえるそうです。


<引用資料>

● 特定非営利活動法人 日本オランウータン・リサーチセンター
 『オランウータンについて』
  https://www.orangutan-research.jp/orangutan.html

● ホンシェルジュ
 『5分でわかるオランウータン!知能や「フランジ」など生態をわかりやすく解説』
  https://honcierge.jp/articles/shelf_story/6304

● あさがく選書「オランウータンってどんな『ヒト』?」朝日学生新聞社(著者/久世濃子)