オランウータン③ オランウータンは樹上生活者

東南アジアの熱帯雨林では地上に光が届かず、生えている植物が少ないのに対し、樹上は乾燥した場所や湿気の多い場所など、さまざまな環境があり、食べ物の果実も豊富です。そのため、オランウータンは大半の時間を高さ10~30mくらいの木の上で過ごし、ほとんど地上に降りてきません。

オランウータンは、完全な樹上生活者なので、枝から枝に移動するのに適した骨格をしています。腕で樹上を歩くようなものなので、腕の長さは脚の長さの1.5倍もあり、とても頑丈です。手や足の長い指は、かぎ状に曲がっていて枝を上手につかめます。 手や足で枝をつかみ、ぶら下がりながら採食をしたり、枝と枝がV字になっているような箇所をみつけて背をもたれて座って休んだり、大振りの枝でうつ伏せや仰向けになって眠るなど、いろいろなことを器用に木の上でやっています。

樹上生活に適した体をしてる

体が柔軟で、肩関節と股関節のじん帯は他の種に比べ細いので、手足をいろいろな方向に向けることができるため、あらゆる場所の枝やツタをつかめます。

木と木の間を移動するときは、枝を自分の進みたい方向にまげて、行きたい方向に振り子のように体を揺らして移動します。

オランウータンの移動は10~20m程度の低い場所の木を利用します。それはこの高さだと、枝や葉が茂る部分が連続して密生していて、葉が重なり合っているため、簡単に木から木に枝を伝って水平に移動できるからだと考えられます。この平行移動はツリーウェイと呼ばれます。

赤ちゃんはお母さんを橋にして木と木を移動することもあります。

コドモのオランウータンは20m前後の高い木を利用します。体重が軽いため、細い枝やツタでも大丈夫なので、つかまる選択肢が多く、葉が密生していなくても樹間の細い枝先から枝先へ移れるので、地上に降りることがまずないからです。

それに対し、体重の重いオトナオスは、自分の体重を支えられる枝やツタを予測してつかまなければならないので、そういう枝が少ない樹木の密度が低い所では地上に降りることがあります。そのため10m以下の低い木を利用する傾向があります。

ウンピョウ
ウンピョウ

オランウータンは大きな体で樹上生活をしていますが、樹上も完全には安全ではありません。誤って落下した時のリスクが大きく、死亡の危険が伴うので、オランウータンはチンパンジーにくらべて慎重に行動します。オランウータンが樹上に巣を作るのは、ネコ科動物などから身を守るためといわれていますが、実際に襲われることはほとんどありません。それでもコドモのオランウータンは木に登るウンピョウに食べられることがあります。

オランウータンの形態の特徴

オランウータンは顔以外の全身が、赤茶色の細長く粗い毛で被われています。粗くて硬いゴワゴワした毛は雨をはじく効果があり皮膚を守ってくれます。体毛の密度が低いのは、雨量が多く湿気が高い熱帯雨林では、毛と毛の間に隙間(すきま)があったほうが、濡れてもすぐ乾くし、風も通って涼しく過ごせるからでしょう。

他の大型類人猿のチンパンジーやゴリラの体毛は黒色なのに、オランウータンの毛はなぜ赤茶色なのでしょうか?熱帯の森林では枯葉や鳥の巣も赤茶色なので、樹上で見つかりにくい効果があるからではないかと思われます。

オトナオスは優位になると、両頬に「フランジ」と呼ばれるふくらみができますが(オランウータン①参照)、大きく張り出しているのはボルネオオランウータンで、スマトラオランウータンはあまり張り出さず、顏自体が細長い形をしています。

ボルネオオランウータン
ボルネオオランウータン(引用: よこはま動物園ズーラシア
スマトラオランウータン
スマトラオランウータン(引用: 日本オランウータン・リサーチセンター

顏型だけでなく、ボルネオオランウータンは体格も全体的に丸くて、体毛もスマトラオランウータンより短めで濃い赤褐色をしています。それに対し、スマトラオランウータンは体毛が長めで、淡い赤褐色です。

毎晩 新しい巣を作って寝る!

オランウータンは、夜になると、木の上に枝や葉っぱでベッドをつくって寝ます。ベッドづくりにかかる時間はわずか3分ですが、ぜいたくにも毎晩新しいベッドに寝るので、かれらは一生のうちに1万台以上のベッドをつくるのです。
小さな子どもは、母親のまねをしてベッドのつくり方を覚えます。自分ひとりでつくれるようになるのは4歳くらい。オランウータンの社会では、ベッドがつくれると、やっと一人前としてみとめられるのです。
それでもやっぱり、心はまだ子ども。雷が鳴ったときは、ひとりで眠れず、お母さんのベッドにもぐりこんで過ごすのだとか。
「もっとざんねんないきもの事典(高橋書店)」P46-47
巣の中のボルネオオランウータン
巣の中のボルネオオランウータン(引用: The Free Encyclopedia「Nest-building in primates」)

オランウータンは夕方、就寝前に集中的に最後の採食をします。そして、周囲が暗くなり始めたころに、ヒトと同じように毎夕、ベッドを作って眠ります。前日とは別の場所の、高さ30~40メートルくらいの木の上に、木の枝を上手に組んで新しい巣を作るのです。

できるだけしっかりした木の枝を土台にして、枝が突き出て邪魔にならないようにやわらかい葉でしっかり覆(おお)って、頑丈でフカフカのベッドを作ります。巣を作る場所は、たいがい木の頂上の朝日が当たる所です。朝、目が覚めたときに、夜露にぬれた体をお日様で乾かせるからです。

同じ場所の巣を繰り返し使わず、毎日新しく作るのは、「ざんねんないきもの事典」にあるようにぜいたくをしているからではありません。分散している果実を探すために、自分の遊動域内を効率よく巡回できるように、毎日移動した最終地点でベッドを作って寝ているのです。

小さなコドモは母親と同じ巣で眠りますが、コドモはまだ眠りたくなくて巣の周りをウロウロしています。そのうち母親に手を引っ張られて巣にいれられるのが、よくみられます。

オランウータンの巣
オランウータンの巣(引用: 京都大学霊長類研究所

<引用資料>

● 世界の動物ニュース
 『動物園レポート1: オランウータンの巣★多摩動物公園ズーフェスタ2008』
  http://worldanimalnews.blog97.fc2.com/blog-entry-6.html

● 特定非営利活動法人 日本オランウータン・リサーチセンター
 『オランウータンについて』
  https://www.orangutan-research.jp/orangutan.html

● フィールドの生物学⑪「野生のオランウータンを追いかけて - マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者」東海大学出版会(著者/金森朝子)

● あさがく選書「オランウータンってどんな『ヒト』?」朝日学生新聞社(著者/久世濃子)