イルカ④ 驚くべきイルカやクジラの体温調節機能と皮膚の秘密

分厚い皮下脂肪の力

 わたしたち人間は、外の温度が変化しても、常に体温を一定に保つ「恒温動物」です。暑い時は、体内の熱を外に出す必要があるため、体の表面側にたくさんの血液を流すことによって、皮膚表面の温度を上げるのです。

 そして、汗をかくことによって、体の中に熱がたまらないようにしています。寒い時は、外気と体温の差が大きい分、皮膚表面の温度が高いと、皮膚から外に熱がどんどん放散されるので、体の表面側に血液をあまり流さないことで、皮膚の表面温度を低く保って、体内の熱を外に逃がさないようにしているのです。

 イルカやクジラも、私たち人間と同じ「恒温動物」ですが、水の中ではどのように体温を維持しているのでしょうか?

海を泳ぐ黒いイルカ
ダイバーとイルカ

 イルカやクジラには、私たち人間のような汗腺(かんせん)はないので、汗は出ません。そのため、海水が暖かいときには、体の表面近くを走る血管を開いて体の表面側に血液を多く送り、それを海水によって冷やすことで、体の体温が上がらないようにしているのです。時には、食べることをやめて、貯蔵した脂肪からエネルギーを使うことによって、体温が上昇しないように調節しています。

 海水が冷たいときは、イルカやクジラの体全体を覆っている分厚い脂肪が、体温を守り、維持しています。ちょうど天然のウエットスーツを着ているのと同じで、体内の熱を外に逃がしません。イルカやクジラは生まれたときから、脂肪の割合が多く、成長と共に一つ一つの脂肪細胞の大きさが大きくなっていきます。この脂肪は、体の約20%をしめており、大きなクジラにおいては脂肪の厚さが、最大なんと30cmもあるのですから、優れた防寒着ですね。

 体の内部では、「対向流熱交換システム」とよばれる、血管の配置によって熱交換する仕組みが備わっています。どのような配置になっているのかというと、心臓から体全体に送る動脈のまわりを、とりまくように近接して、心臓に戻る静脈が配置されています。このため、体の表面側で冷やされた静脈の血液は、心臓に戻る間に、近接している動脈によって温められて心臓に戻ります。このような体温調整の仕組みがあって、海水の温度に対応しながら生きているのです。

イルカやクジラが高速で泳げる理由

 イルカやクジラは、種類にもよりますが、時速30㎞~60㎞の速さで泳ぐことができます。なぜなら、水の抵抗を受けにくい紡錘形の体型をしており、尾鰭(おびれ)の上下運動によって強力な推進力をうみだすからです。そしてもう一つ、速く泳ぐための秘密が皮膚の仕組みにあったのです。水中を進もうとする時、体に沿って乱流渦(渦巻状の水流)が発生するため、空気中を進む時よりも、何倍もの抵抗を受けることになります。

海面を泳ぐイルカの群れ
クジラの尾

 海の中に住むイルカやクジラの皮膚は、陸に住む哺乳動物のように毛はありませんし、魚のような鱗(うろこ)もありません。そのかわり、寒天やコンニャクのように水を含んでいて、とても柔らかい「ハイドロゲル」という物質で覆われています。「ハイドロゲル」は小さな網目構造を持っていて、その網目の中に水を保持することができます。ですから、イルカやクジラの皮膚は、ツルツルしていて、ゴムのような弾力性があるのですね。そして表面には、とても小さな突起が無数にあります。この無数にある小さな突起と、ゴムのような弾力性がある皮膚は、体に沿って発生する乱流渦をそのまま受け止め、クッションのようにへこみます。こうして、抵抗となる乱流渦は吸収され、解消されてしまうのです。そして、この皮膚、なんと約2時間に1度の割合ではがれ落ちて、新しい皮膚になっているのです。私たち人間は、約28日~45日の周期で新しい皮膚に変わっていきます。 こうして比較してみると、イルカやクジラの皮膚の再生の速さは驚異的です。このはがれ落ちる皮膚も、水中に発生する渦を防ぐのに役立っているようです。 早く泳ぐためには、水の抵抗を小さくすることが重要なんですね。イルカやクジラの皮膚にこのような仕組みが備わっていたなんて本当に驚きです。イルカの皮膚を参考にして、抵抗の少ない競泳の水着や、アルペンスキーのウェアが開発されていることは、イルカの皮膚がいかに科学的な情報に基づいた仕組みであるか、ということの証でしょう。

 近年の地球温暖化に伴い、集中豪雨や洪水などが頻発し、また、北極や南極の氷が融解することにより、大量の真水が海に流入し、海の塩分濃度を低下させます。イルカの生息する水域が、長期にわたって淡水にさらされることで皮膚や血液に異常をきたし、皮膚病になったイルカが発見されていることは、とても悲しいことです。この皮膚病は「淡水皮膚疾患」と呼ばれ、ひどい場合はイルカの体の表面全体に広がり、死に至ることもあります。

 海水の塩分濃度の低下は、さらに「海洋深層大循環」に影響を及ぼす可能性が指摘されています。北大西洋のグリーンランド沖や南極周辺において、低温で高い濃度の塩分の海水が、海の深い層まで沈み込んで、2000年ほどかけて世界の海洋を一周するという広大な海の大循環が、海水の塩分濃度の低下により弱まることが懸念されているのです。

荒波
地球

 4回にわたってイルカとクジラについて見てきました。海の中で生まれ、海の中で一生を生きるイルカやクジラは、常に水の抵抗を受けながら生活しています。海の生活に適した睡眠や呼吸、エコーロケーションなどの仕組み、さらには、体型や皮膚の構造などをみていくと、すべてが科学的な情報に裏付けられていることに感動します。このような、科学的情報に裏付けられた一連の仕組みが、どうして進化論でいう、生存競争に勝ち残るために、たまたま偶然になった、と言えるのでしょうか。クジラは、深海への潜水や、広い海域を移動して海をかき混ぜて、他の小さな生きものたちのために栄養分を運ぶ、いわばベルトコンベアーの役割を果たしています。また、海の塩分濃度の変化が、海洋全体の大きな流れにまで影響を及ぼし、そこに生きる生きものたちの体や生活までもかえてしまいます。これらの例をとってみても、海とそこに住む生きものたちは、互いに係わりあいながら、共に生きていることがわかります。このように見ていくと、生きものたちが、生存競争に勝ち、生き残るために対立して生きている姿だとはとうてい思えません。

 また、例えば、私たち人間が、潜水艦や、速く泳ぐための水着を創りたいと、科学的に研究して、設計しようとします。しかし自然界をみれば、すでに先立って、イルカやクジラが、潜水や速く泳ぐための仕組みをもって存在しているのです。このことは何を顕しているのでしょうか?

 私たち人間が生活に役立つもの、より自然を探求するために必要なもの、人間の運動能力をより引き出せるものなどといった、様々なものを創り出そうという時、自然界の中には、すでに必要な科学的情報は隠されているのです。それは、地球に存在する生命が、宇宙全体が、すでにある科学的な情報をもとに設計されて創られたということではないでしょうか?創造した存在がいるということです。

 何より私たちは、イルカやクジラが広い海を自由に泳ぐ姿を見ると、何か心がワクワクして嬉しく、感動します。イルカショーで見せてくれる、速い泳ぎからの高いジャンプと、愛嬌のあるしぐさは、見ている子供たちの心をいっぺんに虜(とりこ)にしてしまいます。

 とてつもなく偉大な科学的知性にとどまらず、偉大な感性を持っている存在がいて、このようなすべての環境を創造した、と考えるのが自然ではないでしょうか。そのような存在こそ「神」であると私は思います。

 私たち人間が喜び、感動できる環境なのですから、「神」は私たち人間に喜びと感動を与えたいという意図をもって、私たち人間を中心として、すべての環境を創造されたに違いありません。

 近年の地球環境問題となっている地球の温暖化や、自然環境破壊、動物の絶滅危機などを考えてみる時、環境を保護できるのも、反対に破壊し、生きものたちを絶滅させるのも、私たち人間の手にかかっていることは明らかでしょう。ですから、私たち人間が、この自然環境や生命を、どのように考えるかということは、とても重要なことだと思うのです。

 皆さんは「ざんねんないきもの事典」でいわれているように、どのように変わるかわからない環境に、適したものだけが生き残る生存競争の世界で、たまたま偶然に進化してきたざんねんな生きものたちだ、と考えますか?

 それとも、すべてが関係性をもって存在している共存の世界で、「神」の意図と目的があって設計され、創造された感動の生きものたちだ、と考えますか?


<引用資料>

● すごい自然のショールーム「イルカの脂肪は、スポーツ万能の秘訣」
  http://www.nature-sr.com/index.php?Page=11&Item=155

● お魚おもしろ話「クジラは体温調節をどこでする?」
  https://yoshihiro30.naturum.ne.jp/e2608507.html

● イルカxyz「イルカの謎を知る」
 『驚くべき新陳代謝!イルカの皮膚は2時間で生まれ変わる!?』
  http://xn--ecko5q.xyz/archives/137

● HATCH「世界各地でイルカの皮膚疾患が発生? 気候変動がもたらす生き物への影響とは」
  https://shizen-hatch.net/2022/04/05/dolphin/