ウシ③ ウシのよだれには、尿素が入ってる?!

ここで、もう一つのシステムを紹介したいと思います。

それは、一見関係なさそうに見えるウシの尿素とよだれに、実は驚くべきシステムが潜んでいたということです。

ウシには「尿素再循環」と呼ばれている、尿素を唾液に戻し胃へと運ぶシステムがあります。ウシの胃の中の微生物は、揮発性脂肪酸と同時にアンモニアという物質も作ります。アンモニアは有害物質ですが、腎臓を通って無害化されていきます。この無害化されたアンモニ アが、尿素なのです。

他の動物は、この尿素を、ほとんど尿から排出して終わりなのですが、 ウシは尿素を全て排出せずに、よだれに戻して再循環しているので す。よだれに戻す、つまり、尿素が唾液に含まれて、また胃の中に入 っていくということです。 なぜ、そのようなことが、ウシの体では起こっているのか、そこには、 ウシならではの理由がありました。

この尿素、なんと!! 胃の中にいる微生物の餌になっているのです。 捨てられがちな尿素なのに、微生物の餌として再利用してしまうなんて、なんと素晴らしい、システムなのでしょうか!!(※1

そして、この素晴らしいシステムも、やはり、よだれ無くしては成立しないのです。 ウシのよだれは、当たり前のように存在して、ただ垂れ流されているように見えます。しかし、実はウシの体を巡回しながら、草や、微生物、尿素などを運搬し、水分として吸収され、胃の中のバランスを整える役割も担っている、さりげなくいい仕事をしている存在なのです。

ここまで、ウシのよだれから、微生物との驚きの共存や、ウシの体の システムについて紹介してきました。これを読まれたみなさんは、ど のように感じられたでしょうか?

「ウシ」と言われて、今まですぐ思い浮かんでいたのは、大きな草食動物という面や、家畜として肉と牛乳、皮など、私たちの生活に身近な、食材、食品、素材を提供してくれる動物としての面が多くあったと思います。でもそれだけではなかった、いろいろな不思議がたくさんあったということですね。

ウシ、草、胃、微生物、よだれ、尿素、それぞれが無駄なく、バランスを保ちながら、互いのために存在している。現代の私達が目指している、持続可能な世界に今回のウシのシステムは、何か参考になるのではないかと思えてなりません。

このように、ウシを掘り下げて見ることでウシの魅力を知り、少しでもウシに対するイメージが今までと変わったら、ウシがより愛おしく思えたら、そこから新たなウシと人間との未来が見えてくるのかもしれません。

また、ウシについて、ここでお伝えしたのは、ほんの一部にすぎず 他にも多くのウシの生態や飼育に関して、研究、報告もなされています。ウシ一頭を見ても、まるで宇宙を知っていくような、奥深さを感じました。これからの生活で、ウシにまつわるものを見たら、このミラクルなシステムを、ほんの少し思い出していただけたら幸いです。

そして、このミラクルなウシのシステムは、ウシがこの世に存在した時から、その機能が発揮されています。到底、偶然にうまくいっているとは言えないほどに、狂うことなく正確に、緻密に、淡々と、今も機能し続けているのです。 人間が、今のウシと完全一致したものを、ゼロから作り出すことは絶対できません。(※2

一体誰が、どのようにこのウシの素晴らしいシステムを、デザインし設計したのか?と想いを馳せてしまいます・・・。

そのデザイナーはきっと私たちに、ウシのこの素晴らしいシステムや、まだ発見できていない認識されていない多くの自然界のシステムを見つけて、調べて、知ってもらうことを、心待ちにしているかもしれません。

今回のウシのお話はここまでとなります。最後まで、お読みいただき、ありがとうございます。

モンゴルの大草原の子牛

<引用資料>

※1 J-STAGE「日本畜産学会報 52巻(1981)10号」
   『反芻家畜における尿素再循環と第一胃発酵の生理学的意義について(PDF)』
   https://www.jstage.jst.go.jp/article/chikusan1924/52/10/52_10_695/_article/-char/ja

   牛の口から出ている「よだれ」の知られざる秘密
   https://rp.rakuno.ac.jp/archives/feature/2383.html

※2 農林水産技術会議「クローン技術の情報サイト」
   『クローン家畜に関するQ&Aについて(PDF)』
   https://www.affrc.maff.go.jp/docs/clone/