① コペルニクスの神
15世紀の半ばまで、「地球は宇宙の中心であり、すべての天体はその周りをまわっている」という天動説が主流でした。その頃「大航海時代」が到来し、船乗りたちは居場所を特定するために、夜空に見える星の動きが場所や時間によってどう変化するかを観測し続けました。すると、「奇妙な動きをする天体」や「明るさが変化する天体」を発見し、頭を悩ませるようになりました。
天動説では説明しきれない「火星の謎」
① 火星が図1の白い矢印のように、星座の中を西から東に動くとき(順行という)と、赤い矢印のように、東から西に動くとき(逆行という)があり、動く速さも一定ではない。
② 火星の明るさが変化する。
図1の現象を天動説にもとづいて説明しようとすると、図2のように、惑星は地球を公転しながら、さらに小さな回転運動もしているという「周転円」という考え方を導入せざるを得ませんでした。そして、説明できない現象がみつかるたびに、辻褄(つじつま)合わせとして周転円の考え方を用いたが、このような複雑な宇宙観に多くの者たち が限界を感じ始めていました。
「火星の謎」を解いた地動説
ポーランドの司祭だったニコラウス・コペルニクスは、「火星の謎」について関心を持ち、考え続ける過程で「もし地球が太陽の周りを公転しているとしたら?」と考えてみると、「火星の謎」が簡単に解けてしまいました。
火星の謎①「順行・逆行について」は、図3のように、地球が火星よりも速く太陽の周りを公転しているために起こる現象として説明できるようになりました。
火星の謎②「火星の明るさについて」は、太陽の周りを地球が1年かけて1周するあいだに、地球の外側の軌道を動く火星は半周すると考えると、地球と火星の距離は季節によって変化します。その距離が離れると暗く見え、近づくと明るく見えることが説明できたのです。
コペルニクスとはどのような人物か
コペルニクスは、1473年にトルンという町(現在のポーランド)に生まれ、10歳までに両親とも亡くなり、司教(司祭をまとめる人)であった叔父に引き取られました。コペルニクスに聖職者の道を歩ませたかった叔父は、必修の教会法を教える大学に通わせました。コペルニクスはその大学で、神学のみならず、法学、数学、医学など幅広い学問を修め、中でも彼をとりこにしたのが、「天文学」でした。やがて、叔父の期待通り司祭となったコペルニクスは、医師としても働きながら、余暇には自分の本来好きな天文学の研究に時間を費やしていました。そして16世紀初頭、「火星の謎」について興味をもった彼は、気楽な立場ゆえの自由な思いつきから、ついに「もし地球が太陽の周りを公転しているとしたら?」という発想の転換に至り、地動説を生み出したのでした。
コペルニクスの苦悩
コペルニクスは司祭という立場上、地動説を公表することにはためらいがありました。なぜなら、その当時の教会は「地球は宇宙の中心であり、すべての天体はその周りをまわっている」という天動説を支持していました。それは神が創造された地球が、宇宙の中心であることを証明する考え方だったからです。しかし地動説では、地球は宇宙の中心ではなく、他の惑星と同じ扱いになってしまいます。そこで彼は、教会が支持している考え方と異なる説を発表してよいものかと、悩み苦しんでいたようです。
また、コペルニクスは発想の転換および理論の構築には優れていたものの、当時の観測技術の限界もあってか、地球が太陽の周りを公転していることを示すことに苦労していたと言われています。
それでも1510年、彼は不完全なものでありながらも地動説を公にしました。その当時の教会は、地動説の精度が粗かったため、取るに足らない一説としてみなし、彼を咎めることはありませんでしたが、宗教改革を起こしたマルティン・ルターによって、彼は激しい非難を受けました。
そんな中でも、彼の地動説に感銘を受け支持する人たちに支えられながら、1542年彼の地動説の集大成となる「天球の回転」の草案を書き上げました。ここで示された彼の宇宙像が、のちの宇宙論への扉を開き、ガリレオやニュートン、アインシュタインの業績につながっていったと考えられます。
地動説を生んだ原動力
その当時、天動説が主流な中、なぜコペルニクスはこのような発想の転換ができたのでしょうか。まず、コペルニクスは司祭として心から神を崇拝し、愛していました。だからこそ、コペルニクスの心には「敬愛する神はどのような宇宙を創ったのかを少しでも知りたい」
という純粋な欲求と、「神が創った自然は天動説のような複雑なものではなく、もっと美しく単純なものに違いない」という信念がありました。つまり、コペルニクスの神に対する絶対的信頼と純粋な好奇心こそが、地動説を生み出した原動力であったと感じます。もし、神が人間を含むすべての宇宙を創造されたのであれば、コペルニクスのように、固定観念に縛られない純粋な動機で真理を探究する人物にこそ、宇宙の真理を与えたいと思われるのではないでしょうか。最後に、コペルニクスの名言を紹介します。
「学者の仕事は、神に許される範囲で真理を探究することだ」
「宇宙は、最高に秩序のある創造主によって私たちのために作られました」
コペルニクスの名言15選|心に響く言葉 | LIVE THE WAY (live-the-way.com)より抜粋
参考文献
「科学者はなぜ神を信じるのか」 三田一郎著
引用文献
図1 「科学と人間生活(科人302)」啓林館 p.152 (なお、矢印は筆者が付した)
図2 「科学と人間生活(科人302) 教授資料 朱註」啓林館 p.153 (なお、「周転円」及び矢印は筆者が付した)
図3 「科学と人間生活(科人302) 教授資料 朱註」啓林館 p.153
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