コアラ① 毒性のあるユーカリを食べるコアラはざんねんないきもの?
動物園に行って一番可愛い動物…といって頭に思い浮かべる動物の一つにコアラがありませんか?
ユーカリの樹上で、木に抱っこする格好で一日中ゆったりと座っている、コアラの愛くるしい姿を見ると、思わず笑みがこぼれ、心が和んでしまいます。ところで、コアラが樹の上から降りてきて動く姿には、なかなかお目にかかれません。それもそのはず、コアラはユーカリの樹上で、一日の大半を寝て過ごしているからです。どうしてずっと寝ているのか…? それは、コアラがユーカリの葉を食べることと関係があるのです。
『ざんねんないきもの事典(高橋書店発行)』では、次のように書かれています。
ほかの昆虫や野生動物が食べることができない、毒性のあるユーカリの葉を、食べることができるように進化して、生存競争に勝ち残ったコアラは、その結果、解毒のために一日中寝ているしかない、ざんねんな生き方をせざるを得なくなった… というのです。
コアラがユーカリの葉を消化できる能力は、本当に進化という偶然の積み重ねで獲得できるものなのでしょうか?これから、コアラがユーカリの葉をどのように消化しているのか、どんな生活をしているのか、ちょっと覗いてみたいと思います。
ユーカリの樹はコアラの“マイホーム”
コアラの大好きなユーカリは、オーストラリアのような乾燥した気候に強い樹木です。なぜ乾燥に強いかというと、根を非常に深いところまで伸ばして、地下水を吸い上げる力が強いからなのです。木全体の50~70%は水分という水分をたっぷり含んだ樹木です。おまけに成長も早く、再生力の強い木です。乾燥に強いだけに、葉に多くの水分を含みます。コアラは樹の上で、この葉を食べることで水分も一緒にとれるので、わざわざ樹の下に降りて、水を飲みに行かなくてもよいのです。まれに雨が降っている時や、降った直後に、コアラは樹の幹を流れる雨水をなめたりしますが、樹の下でコアラが水を飲む姿はあまり見かけることはありません。
コアラの天敵としては、鷲やフクロウ、蛇、トカゲ、ディンゴなどが存在します。しかし、高い樹の上で長い時間過ごすコアラは、敵から狙われる機会は比較的少ないようです。臆病でストレスに非常に弱いといわれているコアラにとって、他の動物と闘わずに、ユーカリの樹上で餌を食べ、水を飲みに危険な樹の下に降りなくても過ごせることは、まさにコアラにピッタリの環境です。
また、ユーカリは葉や枝にオイルを含みます。このオイルは、ミントを強くしたようなくっきりした爽やかな香りがあります。天敵である蛇は、この香りを嫌うので、ユーカリの樹がコアラを天敵から守ってくれているようです。ユーカリの樹はコアラにとって安心して暮らせる「家」そのものなのですね。
毒の少ない葉を識別できるスゴイ臭覚と味覚
このオイルには、抗炎症作用、殺菌作用、鎮痛鎮静作用があり、先住民アボリジニによって古くから利用されてきました。 しかし、ユーカリの葉は栄養価が低く、タンニンという毒性の成分を含んでいるため、動物の餌としては適さないのです。他の動物や昆虫が食べることのできないユーカリの葉を、コアラは一日に500グラム~1キログラムも食べます。毒性を持つユーカリですが、実はコアラには、毒の少ない葉を識別できるすごい嗅覚と味覚が備わっているのです。コアラの大きな鼻に備わった鋭い嗅覚で微妙な匂いをかぎ分けられるのです。また、葉に含まれる毒を、苦味として舌で感じることができます。「苦味受容体」という遺伝子を、他の有袋類に比べて多く持っていることが研究で明らかになっています。
こうしたコアラ独自の嗅覚と味覚で、ユーカリの葉の中でも、強い香りがなく、糖分が多いもの、そして、比較的毒性の少ない若い芽を識別して食べているのです。 こうして、コアラは葉を識別しながら、全てを食べ尽くすことなく、別の木に移動していきます。つまり、コアラは必要な分だけを採り、次世代につなぐべくユーカリとのバランスを保ちながら共生しているのですね。
次回は「毒性のあるユーカリを消化できる特別な機能と仕組み」についてお話したいと思います。
<引用資料>
● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「ユーカリ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ユーカリ
● 京都大学「最新の研究成果を知る」
『コアラの全ゲノム配列の解読に成功 -コアラはなぜ猛毒のユーカリを食べるのか?-』
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2018-07-04-0
● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「コアラ」
https://ja.wikipedia.org/wiki/コアラ
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