カンガルー① カンガルーの不思議な袋

有袋類カンガルー科の生き物は、カンガルーやワラビーなど、たくさんの種類がいて、合わせると55種類以上もいます。ここでは普通に見られる大型のカンガルーを取り上げていきたいと思います。

カンガルーというとおなかの袋と一体のイメージですが、袋があるのは子育てするメスだけで、オスのカンガルーには袋がありません。

カンガルーの子どもは、お母さんの袋の中で育つことが知られています。でも、袋の中で生まれるわけではありません。ではどうやって袋にはいるのでしょうか?

カンガルーの赤ちゃんは、総排出腔という、袋の少し下にある穴から生まれてきます。総排出腔とは直腸・排尿口・生殖口を兼ねた器官です。

生まれたばかりのときは超未熟な状態で、大型のカンガルーの赤ちゃんでもとても小さく、体長2cm体重1gほどしかありません。なんと大人のカンガルーの6万分の1の大きさなのです。

カンガルーの赤ちゃん
生まれたてのカンガルーの赤ちゃん
(引用: 長崎バイオパーク公式ブログ

赤ちゃんは生まれるとすぐ自力で、穴の上にある袋を目指して命がけではい上ります。落ちたら死ぬしかありません。お母さんカンガルーの手は細かいものをつかめないので、落ちてしまった赤ちゃんを拾うことができないからです。目も見えず耳も聞こえない、毛も生えていない、歩くこともできない赤ちゃんは、袋に入らないと生きていけないのです。

ですから、お母さんカンガルーは毛をなめて、袋までの道筋を作ってあげて、じっと動かずに待ちます。赤ちゃんがお母さんのお腹を上るスピードは結構早く、あっという間に数十秒で袋の中に消えていきます。

お母さんのお腹を這い上がるカンガルーの赤ちゃん
お母さんのお腹を這い上がるカンガルーの赤ちゃん
這い上がった道筋ができています。
(引用: 長崎バイオパーク公式ブログ

口と乳首がはなれない赤ちゃん

小さくても力強い命は、前足だけで袋にたどり着くと、その中で大切に育まれます。でも、袋の中にある乳首に吸い付かないと、お乳が飲めませんから、おおきな鼻の穴でお乳の匂いを頼りに乳首をさがします。

カンガルーはわずか数㎝の小さな赤ちゃんをうみ、袋の中で育てます。カンガルーの体にはおへそがないため、お母さんのおなかの中で栄養をもらえないからです。
うまれたばかりの赤ちゃんは、自力で袋に入ると、中にある乳首をくわえます。すると、乳首の先がぷくっとふくらみ、口からはずれなくなります。赤ちゃんが成長して口を大きく開けられるようになるまで、強制的に乳首をくわえさせられたままになるのです。
「ざんねんないきもの事典(高橋書店)」P81

人間の場合、赤ちゃんは、長い妊娠期間中に成長して、ある程度発達してから生まれますが、カンガルーが母親の胎内で過ごす時間は、たったの33日間。それは、人間が妊娠して2カ月で赤ちゃんを産むようなものですから、カンガルーの袋はいわば、未熟児のための保育器のようなもの。ちゃんと安全に、かつ衛生的に育てながら栄養を与えることができる驚くべき機能が備わっているのです。

袋にたどりついた赤ちゃんが内部で乳首に吸い付くと、その乳首だけがお乳を効率よく吸えるようにニョキっと伸びて、食道あたりまで入り、口からはずれにくくなります。そうして、赤ちゃんは、外にでる時を迎えるまで、乳首に吸い付いたままぶらさがって過ごすのです。

この状態は、人間の赤ちゃんがお母さんの子宮の中でへその緒でつながって育つのと同じです。もし、へその緒が切れたら生きていけないわけですから、カンガルーの赤ちゃんも乳首をはなすことはできないのです。「乳首の先がぷくっとふくらむ」かどうかはわかりませんが、口からはずれないのは残念なことではなく、生きていくためにそのように設計されているのであって、生命の神秘を感じます。

大きく開いた口
大きく開いた口
乳首が入るようになっています。
(引用: 金沢動物園ブログ「OH!カンガルー」
大きな鼻の穴
大きな鼻の穴
乳首を探すために嗅覚が発達しています。
(引用: 金沢動物園ブログ「OH!カンガルー」

体の下側に見えているのが短い尻尾と後ろあしですが、まだほとんど発達していません。赤ちゃんは前あしを使って袋まで上るので、子宮では出産までに前あしが集中的に発達するようになっているのです。この前後のあしの発達速度の違いは、カンガルーがお母さんの袋で育つように準備されているからであって、決して偶然では起こりえないでしょう。

袋の中は 安全な快適空間!?

カンガルーの袋には「育児嚢(いくじのう)」という名前がついています。その名の通り、子どもを育てるための袋で、人間の赤ちゃんが入っているお母さんのおなかの中のようなものです。

袋の中は温度や湿度が保たれ、毛が生えていない肌と肌が直接触れあって、赤ちゃんは居心地の良い温かさに包まれて過ごせます。それだけでなく、中には抗菌物質を放出する汗腺が並んでいて、有害なウイルスやバクテリア、寄生虫から赤ちゃんを守ってくれる、安全・快適な環境になっています。

生まれてすぐは乳首にぶら下がっていた赤ちゃんも、体が大きくなるにつれて、袋の底に寝転ぶように収まり、それに合わせてだんだんと乳首も伸びていきます。赤ちゃんは生まれてから袋の外に出るまで、ずっと同じ乳首を使います。

お乳を飲むカンガルーの赤ちゃん
お乳を飲むカンガルーの赤ちゃん
(引用: 金沢動物園ブログ「OH!カンガルー」

生まれてから袋に入るまでは、小さな赤ちゃんにとっては大変なことですが、入ってしまえば、外に出なくてもお乳は袋の中で飲めるし、何の苦労もない快適空間で過ごせるのです。どんなに小さく生まれた赤ちゃんでも、無事に育つことができる安全ポケットが、カンガルーのお母さんの袋なのです。


<引用資料>

● 長崎バイオパーク公式ブログ
 『カンガルーの赤ちゃん(真)』
  http://www.biopark.co.jp/staff/2013/04/post_595.html

● 金沢動物園ブログ 「OH!カンガルー」
 『ちびっこカンガルー、シオの誕生秘話』
  https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/details/post-1079.php

● 金沢動物園ブログ 「OH!カンガルー」
 『今月のニューフェイスカンガルー(ミロ①)』
  https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/details/post-660.php

● 知力空間
 『カンガルーの袋の仕組み|未熟児で生まれる子供のための優れた機能』
  https://cucanshozai.com/2019/09/kangaroos-pouch.html

● いきふぉめ~しょん
 『カンガルーの袋ってどうなってるの?気になる疑問を詳しく解説!』
  https://ikimall.ikimonopal.jp/blog/post-1104/

● 桐生が丘動物園
 『カンガルーの赤ちゃんのはなし』
  https://www.city.kiryu.lg.jp/zoo/ninki/honyurui/1007121/1004714.html

● キッズネット
 『カンガルーのおなかにはなぜふくろ(ポケット)があるの』
  https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/science0116/

● 雑学ネタ帳
 『カンガルーの誕生日は生まれた日ではない』
  https://zatsuneta.com/archives/005310.html