キリン② 長い首の動きを支える精密な骨格の構造

座っているキリン

 首や足が長くなることで、体に影響を受ける二つ目は、その長い首を支え、動かす骨格の仕組みです。未だ研究段階で、なぞも多いキリンの体の構造です。

 キリンは高さが約5m、体重は約1tとかなり大型です。その上長い首を持っていて、その先には5~15kgの重い頭骨を乗せているのです。ですから、重心が取りづらく、歩いたり走ったりするのに、とても不安定になりやすい体型なのです。それでもキリンは時速50~60kmで走ることもできます。

 また、キリンの首は高い所にある葉を食べ、反対に足元にある水を飲み、落ちた果実を食べることができる首の可動域をもっています。さらにはオス同士が首で激しく争うネッキングや、深い眠りの時に見せる、地面に座って首をくるりと丸めて背中に乗せる姿(図1)を見ると、首の動きに柔軟性があることがわかります。ネッキングとは群れの中でのオスの順位を決める闘争行動です。オス同士が互いに長い首をしならせて、角のある頭を振り回して相手の首や胴体に力いっぱいぶつけあって強さを競います。闘争行動のネッキングだけではなく、キリンは2頭がじゃれあう時や、雄と雌の間の求愛行動の時も、その長い首を使って愛撫するのです。(図2)

眠りが深いときにとる姿勢
図1:眠りが深いときにとる姿勢
愛撫する姿
図2:愛撫する姿

 キリンの首の構造を見ていきます。哺乳類の背骨(脊椎)は1本のつながった硬い骨ではなく、椎骨とよばれるブロックが、いくつも連結されています。ですからひとつひとつのブロックが、少しずつ動ける構造になっているので、柔軟な動きが可能なのです。哺乳類の首を構成する骨の数は、首の長さに関係なく基本的に7個です。首の長いキリンも首の骨(頸椎)の数は同じ7個で(図3)、1個の首の骨(頚椎)の長さが約30cmと長いのです。

キリンの骨格
図3:キリンの骨格
首の骨の比較(ヒトとキリン)
図4:ヒトの首の骨(左)とキリンの首の骨(右)
足元の水を飲むキリン
写真1:足元の水を飲むキリン

 また、7個の首の骨(頸椎)の次に連結されているのは14個の胸の骨(胸椎)です。胸の骨(胸椎)は、胸を保護するろっ骨(肋骨)がついているために、基本的には首のようには動きません。しかしキリンの場合は胸の骨(胸椎)の1番目は、首の骨(頸椎)と形が似ていて、首の動きに関与していることが特徴です(図4)。ろっ骨(肋骨)の付き方に工夫がされていて、首の骨(頸椎)と同じように動かすことができるというわけです。この8番目の首の骨(頸椎)ともいうべき1番目の胸の骨(胸椎)が、首の動きの支点になっており、本来の7つの首の骨(頸椎)だけで動かせる可動域を50cmも広くし、さらに長い首の動きを柔軟にしていることが、キリン研究者の郡司芽久氏(農学博士、東洋大学生命科学部助教授)の研究で明らかになっています。

 この1番目の胸の骨(胸椎)の形を首の骨(頸椎)に似せて、さらにろっ骨(肋骨)や腱、筋肉の付着の位置を変化させることにより、長い首の動きをしっかり支えながら、高いところの葉を食べることと、足元の水が飲め(写真1)、落ちた果実を食べることができるというキリン特有の首の動きを可能にしているのです。さらに、背中の骨(脊椎)にある長い突起にしっかりと付いた強力な筋肉と、隆起した大きな肩で、頭部と長い首を支えているのです。

斜対歩(チーター)
写真2:斜対歩(チーター)
側対歩(キリン)
写真3:側対歩(キリン)

 キリンは、前足と後ろ足を比べると、前足のほうが長く、また首の付け根の位置が体の比較的高い位置にあります。これらの骨格の構造が、背が高く、首の長いキリンが重心をとりながら、バランスよく歩いたり、走ったりできる秘密なのかもしれません。多くの動物は「斜対歩」といって、右の前足と左の後足を同時に動かし、左の前足と右の後ろ足を同時に動かして歩きます(写真2)。この歩き方は体が上下に揺れます。しかし、キリンや象、ラクダなどの大型の動物は、「側対歩」といって、同じ側の前足と後ろ足を同時に動かして進みます(写真3)。この歩き方は、体が常に水平で揺れが少ないのです。そのため、走行の祭に負荷が少なくて済むのです。

 このように骨格の構造や歩き方は、科学的な情報が裏付けされた設計なくしては成り立たないでしょう。この精密な設計によって、キリンは長い首を動かすことや、バランスよく歩くことができるのです。 

 郡司氏は、さまざまな研究者の研究を紹介しているサイト「Top Researchers」のインタビュー『キリンの解剖から、首の進化を解明する』(2019年11月21日)の中で、次のように語っています。

「ロボットは人間がうまく設計して歩かせないと、うまく歩いてはくれません。しかし、キリンは仕組みがきちんとわかっていないだけで、不安定ながらも、うまく歩いていることに間違いありません。時速50kmで走ることだってできます。(中略) 彼らの体に秘められた謎をさらに解き明かしていきたいと思っています。」

 今後のキリンの研究で、キリンの体の構造や仕組みの謎がさらに解明されることを期待します。

 ここまで、首が長く足が長いことで、様々な影響が体にあることを一緒に見てきました。首の短かったキリンの祖先が、生き残るために進化して長くなったとしたら、このような血液循環の仕組みや骨格などのすべてが、ただの偶然の積み重ねで、備わっていくものでしょうか。もともと首の長いキリンを想定した、科学的な知識に裏付けられた驚異的な設計があってこそ、このようなすべての仕組みが備わるのだとは思いませんか。ただの偶然の積み重ねで進化した結果としてのキリンではなく、知性の存在により設計され創造されたキリンだといわざるを得ません。

 次回はキリンの出産についてお話していきます。


<引用資料>

● 東京大学 Articles
 『キリンの首は、もっと長い ー 解剖学的解析による、8番目の「首の骨」の発見』
  東京大学大学院農学生命科学研究科 郡司芽久大学院生、遠藤秀紀教授
  https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/a_00462.html

● Top Researchers
  『キリンの解剖から、首の進化を解明する』
  郡司 芽久・国立科学博物館日本学術振興会特別研究員PD
  https://top-researchers.com/?p=3223

● 「나는 기린 해부학자 입니다」더숲出版(군지 메구 저/이재화 역/최형선 감수)
  ※「キリン解剖記」ナツメ社(著者/郡司芽久)の韓国語版

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「キリン」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/キリン

● クリスチャン科学者 安藤和子
  『キリンの首・ゾウの鼻』
  http://andowako.jp/audioandvideo/video_kirin_zou.html

● 絶滅危惧種リスト
 『キリンの歩き方の特徴。側対歩の理由とは!?』
  http://endangered-species.biz/archives/95