キリン③ キリンは立ったまま出産する

キリンの母子

 背の高いキリンはアフリカのサバンナの中でどのように赤ちゃんを産むのでしょう?

 「もっと ざんねんないきもの事典」(高橋書店)では、キリンの出産について次のように書いています。

 「キリンの赤ちゃんには、うまれてすぐにいろんな試練が待っている。ふつう、動物の赤ちゃんは親によって大切に守られます。しかし、キリンの赤ちゃんは生まれた瞬間から超ハード。まず、母親のお腹から生まれた瞬間に、地面にたたきつけられます。キリンは立ったまま出産するため、おのずと2mの高さから放り出されることになるのです。」(p94)

 言われる通り、キリンの赤ちゃんは、立ったままのお母さんキリンから高さ2mのところから生まれてきます。しかしお母さんキリンは本当に、赤ちゃんを高いところから放り出して、大切に守っていないのでしょうか。

安全なお産ができるよう備えられた一連の仕組み

 出産するところを見てみましょう。最初に見えてくるのは赤ちゃんの2本の前足の蹄(ひづめ)です。この赤ちゃんの蹄には蹄餅(ていぺい)といってたんぱく質でできたやわらかいスポンジ状の組織がついています。生まれてくるときにお母さんの子宮や産道を傷つけないように柔らかくなっているのです。

 ゆっくりと膝くらいまで出でくると、次は伸びた前足の上に平行にのせた頭と長い首が出てきます。そして、破れ始めた羊膜に包まれた赤ちゃんの体の半分から3分の2くらいが出てきて、しばらくの間、宙にぶら下がった状態が続きます。後ろ足だけが産道に残っている状態です。この時、臍帯(さいたい)や胎盤内の血液が臍(へそ)を通じて赤ちゃんキリンに流れています。逆さまの格好になっているので、赤ちゃんキリンは、飲み込んでいた羊水を容易に吐き出すことができます。そうして肺呼吸になっていくのです。ぶらさがっている赤ちゃんの体はふにゃふにゃして柔らかく、前足と平行になった頭と長い首はもうじき地面に届きそうなくらいです。

 いよいよ、最後に強い陣痛に押し出されて、体全体がドサッと音を立てて産まれてきます。生まれた後にへその緒を噛んで切る動物が一般的ですが、立って出産するキリンの場合、落ちる衝撃でへその緒が自然に切れるのです。胎児を覆っていた羊膜という薄い膜は生まれた時にはほとんどが自然に破れ落ちています。

 お母さんキリンは残った羊膜を舌で舐めて取り除き、さらには羊水でぬれた赤ちゃんの体も舐めて乾かしていきます。動物園では、飼育員が赤ちゃんキリンを乾かそうとタオルや藁(わら)でふいてもなかなか乾かないのだそうです。しかし、お母さんの舌で舐めてあげるとすぐに乾くのです。その刺激で体の循環もよくなり呼吸状態もよくなります。

 動物の舌は人間の舌と違い、ざらざらしていて唾液も多いので、なめてあげることで汚れを落とし、唾液が蒸発する気化熱で素早く乾かしてしまうのです。お母さんが舐める刺激で、赤ちゃんは少しずつ動きはじめ、首を起こし、立ちあがる準備を始めるのです。生まれたばかりの赤ちゃんキリンはうまく足を踏ん張れずにすぐに倒れてしまいます。倒れるたびにお母さんキリンは赤ちゃんキリンを舐めてあげ、赤ちゃんキリンは立ちあがるのをそばで見守ります。そうして何度も繰り返すうちに、ついにはしっかりと立ち上がることができるのです。立ち上がった赤ちゃんキリンは誰から教わるわけでもなく、お母さんキリンの乳首を求めて歩き始めます。

 キリンの妊娠期間は15か月と長いので、生まれたばかりの赤ちゃんの体はすでに体長約2mで、お母さんのおっぱいに届く大きさです(写真1、2)。ちょうどお母さんのおっぱいが飲めるような大きさで生まれてくるのですから不思議です。15か月という胎内期間に、大脳から脊髄を経て骨格筋に至る神経系ができあがり、生まれながらにして筋肉に命令できるところまで発達します。ですから、生まれて間もなく立ち上がり、歩くことができるのです。長い首だってしっかり座っています。胎内期間が長い分、体もそこまで成長した状態で生まれてくるということです。

 お母さんのお腹の中で大切に守られて大きくなってから生まれてくるのです。立って出産するため、結果として高いところから生み落とされますが、叢(くさむら)の中での出産であり、実際、大事な頭は地面に近くなった低い位置から落ちます。背の高いキリン、首の長いキリンが立ったお産ができるように、これらの一連の仕組みが備わっていることが感動ではありませんか?

お乳をのむ赤ちゃんキリン
写真1 お乳をのむ赤ちゃんキリン
赤ちゃんキリン
写真2 赤ちゃんキリン

もともと首の長いキリンは創造された

 ここまで、首の短かったキリンの祖先がたまたま偶然の重なりで長くなったとは考えられない、ということを見てきました。皆さんも、あまりにも精密な設計によって、「もともと首の長いキリンが創造された」とは思いませんか?

 長い首で生きて生活することは簡単ではなく、本当に様々な仕組みと構造が必要なのです。そして、なによりキリンはその長い首だけではなく、何とも言えない可愛い瞳と体の柄がとても魅力です。5mもの高さがあるのに威圧感はなく、動物園でそばに寄ってくると、子供たちはついキリンに餌をあげたくなってしまうほど親しみを感じてしまいます。また、ゆったりとした動きが私たちに安心感を与えてくれます。  私たち人間の首の長短にその人の性格が現れる、ということをきいたことがありませんか?

 一説によると、短い首はバイタリティーがあって積極的、せっかちな性格なんですね。長い首はのんびりしていて、包容力があり、感受性が豊か。キリンもまさにのんびりしていて優しさや包容力を感じます。見えない性質がこうして形に現れることを教えてくれています。またキリンの柄についても敵から身を守るカモフラージュという説もありますが、明らかになっていないことが多いようです。しかし、キリンをはじめシマウマやチーターなど、動物たちの柄を見ても、私たち人間がその人に似合う洋服の柄を選ぶように、その動物にぴったりの洋服をあつらえたように見えませんか?

 不思議だな、かわいいな、すごいな、きれいだな、といった様々な感動を私たち人間が感じられるように、長い首や柄、可愛い瞳までもがデザインされ、さらに様々な仕組みや構造のための驚異的な設計があってこそ、「もともと首の長いキリンは創造された」と筆者は考えます。

 そんな感動をたくさん秘めて創造された、生き物たちの生命の不思議をこれからも探していきたいと思います。

キリンの親子
キリンと日の出

<引用資料>

● フリー百科事典ウィキぺディア日本語版「キリン」
  https://ja.wikipedia.org/wiki/キリン

● 馬の資料室(日高育成牧場)
 『安全な出産のために』
  https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2018/11/post-2a1a.html

● 静岡市立 日本平動物園「でっきぶらし(News Paper)」
  『期待むなしく三度目のキリンの人工哺育』
  https://www.nhdzoo.jp/sp/newspaper/naka.php?newspaper_uid=360&newspaper_num=44

● Umas!(うます) 「馬百科 > 馬のからだ」
 『蹄餅 生まれる時に蹄についてる餅はうま以外にもある』
  http://umas.club/hp0544

● PEPPYvet(ペピイベット) ※動物医療関係者の通販サイト
  『猫の「舌」は人とどう違うの?』
  https://www.vetswan.com/tool/column/health/95

● スピカ(知る見る楽しむ占う幸せサイト)
 『首の太さや長さで性格診断』
  https://spicatalk.jp/?act=inc&incf=topics/detail&num=20170202

● THE ANIMALS 「キリン」
  http://animals.main.jp/mammals/giraffe001.html

<参考動画>

● YouTube – キリンの出産
  https://www.youtube.com/watch?v=FAMJ4e3zMY0

● YouTube – キリンの杏子の出産【愛媛県立とべ動物園】
  https://www.youtube.com/watch?v=42SRChC0KCU

● YouTube – 福岡市動物園:キリンに赤ちゃんが生まれました!
  https://www.youtube.com/watch?v=AlF49hTmzdg

● バイオハックch 「2mの高さから産み落とすキリンの出産シーンが衝撃的」
 2mの高さから産み落とすキリンの出産シーンが衝撃的